コインの表と裏
【株式公開と仏教】
<われをつれて、我影帰る月夜かな 山口素堂>
山口素堂は松尾芭蕉の盟友でもあった江戸期の俳人です。
月夜にくっきりと浮かぶ「我が影」が、頼りなさげな「われ」を先導しているかのように見える面白さを詠んだ句かと思います。おぼろげな「われ」と、その影に過ぎないのに存在感の大きい「我影」、このひらがなと漢字の対比も俳人の趣向を感じさせます。
若い時分に、私は株式公開の仕事の傍ら、仏教を学びました。
仏教は教理でもありますが、広い意味では人間学でもあり、「わたし」の生きる姿を仏様の世界から描いたものだと、私は考えることがあります。
個の人生と切り離して仏教を語ることも可能ですが、私の場合はコインの表面が株式公開なら裏面が仏教、まさにコインの裏表の関係でした。
そうした目で法然上人を見ると、表面は「選択本願念仏集(もしくは称名念仏)」ですが、裏面は「お釈迦様」なのです。
法然上人を「仏教モドキのアジテーター」と快く思わない文化人もいるようですが、法然上人の「飛躍」は、お釈迦様の「飛躍」と同質のものだと私には見えます。法然上人は一切経(すべてのお経とその解釈)を5回通読したと伝えられます。小乗仏教と蔑まれたお釈迦様本来の教えを、法然上人は魂で感じ取られ、外護者・九条兼実を通じて、後の法敵・明恵上人に影響を与えたと私は妄想しております。
お釈迦様は、ヴェーダ(ヒンドゥー経典)の「権威を認めない」姿勢を崩しません。「権威を認めない」とは「妄信はしない」というだけの話で、疑っているわけでも、誤っていると考えるわけでも無いのだと私は捉えております。
初期の仏教教団は、敢えて権威となりかねない経典を作らなかったとも言われます。法然上人にも、しぶしぶ書いたと言われる選択本願念仏集以外にこれといった著書は少ないのですが、お釈迦様同様、同時代の人たちの証言が残されております。
法然上人は、経典は「仏の教え」と捉えながらも、宗派は「人が解釈し創造したもの」と考えられた節があります。経典自体の権威を認めない初期仏教の立場からは後退しているものの、自らの浄土宗も含め、どの宗派の権威も認めないという点では、誠に破天荒な仏教者でした。
【我思う、故に我在り】
デカルトは「我思う、故に我在り」と説きました。疑って、疑って、疑い抜いても、それでも疑っている「我」の存在は疑いようがない、高校の授業でそう教えられた記憶があります。
ただこの「思う我」は「我」ではない、というのが仏教の立場です。
「思う我」の他に「真の我(真我)」があると考えたのがバラモン教ですが、仏教は真我ではなく無我を説いたとも言われます。
大乗仏教の二つの大きな潮流の一つ、中観派では真我を説きません。
ただもう一つの潮流である唯識派では、「思う我」は第六識(意識)で、それは第八識(阿頼耶識)が転変したものと捉えます。第八識(阿頼耶識)を「真我」と見る余地が出て来そうです。
日本の真言密教や禅宗では、真我のような存在を前提に「修行によって本当の自分が顕れてくる」という考え方があります。お釈迦様は「真我」を、妄信も否定もされなかったと私は考えます。
実は瞑想技法の面でも、無我/真我の相違があります。
今回は株式公開実務を踏まえ、無我/真我の実態を検討してみます。
欧米の瞑想は、医学や科学を総動員して人と社会の幸福を追求しますが、日本ではエンタメ系の瞑想が流行し、「話題作り」先行のケースが多く見られます。
日本では仏教は教養・文化の枠で語られ、寺院経営で注目されるのは葬儀と法要、株式公開にも直結する実用性や実践性が忘れ去られております。
欧米では各分野で学位を取得しているプロがタッグを組んで、科学として次世代に継承する前提で仏教が再解釈され、さまざまな瞑想プログラムが開発されます。
日本の仏教は「歌を忘れたカナリヤ」ですが、カナリヤは炭鉱に危険が迫った時、人
よりも早く危機を察知し鳴くのを止める、繊細な鳥でもあります。
【爬虫類脳を刺激するプロモーション】
ある研究によれば、人間が1日に起こす想念は約6万個で、環境が変わり、新たな一
日を迎えても、そのうちの95%は昨日と同じ想念なのだそうです。「三つ子の魂は百まで」とも言いますが、追い求める目標も、ネガティブな不安や恐怖心も、日常の学習や心がけでは、変えることができないのです。
お釈迦様が提示した解決策は出家と瞑想で、単純に考えれば古い思考回路への関与を最大限抑制するプログラムですが、これは現代社会でも大いに効果を発揮します。
狭い想念の枠を解き放つことで、視野が広がり発想が自由になり、最適な人生の選択、最適な経営判断へと導かれます。
仏教自体に結論がある訳ではなく、瞑想する人に仏の智慧が降りるシステムです。
因習化された95%の想念の大半は、ドーパミン神経回路などの快楽ホルモンにより無意識の中で強力に生成・サポートされる「我影」です。
この欲求に突き動かされる「獲得システム(drive system)」は、脳幹など爬虫類脳が支配するシステムですが、近年特に狂暴化しており、現代の資本主義社会では、このシステムを敢えて刺激する、広告宣伝やプロモーションが氾濫しております。どの神経回路も、使えば使うほど、強化されることが分かっております。
マーケティングの名の下で、ビジネスのために爬虫類脳の神経回路を刺激し続ける状況は、全人類参加型の相互洗脳・相互調教システムとも言えそうです。
爬虫類脳主導の経営から仏教・瞑想主導の経営へ、これが宝瑞院の使命の一つです。全米のベストセラー「デジタル生存競争(ダグラス・ラシュコフ著)」によると、米国の超大富豪達は、自分たちが競争を続ければ地球が崩壊すると理解しながらも、快楽ホルモンを貪る「競争勝利」のマスタベーションから降りられないと言います。いくら理性では理解できても、ドーパミン神経回路の暴走は止まらないのです。
デジタルによる刺激の強化で、爬虫類脳の肥大化はますます進展しております。私たち日本人も、地球の末路に悲観はしていないだけで、思考回路は米国の超大富豪並み(ちなみに「誉め言葉」ではありません!)なのです。
◎本レポートは、<宝瑞院副住職 沼田 榮昭のマニアックなメルマガマニアックなメルマガ 11【2024年11月】を大原浩の責任で編集したものです。
★沼⽥ 榮昭(宝瑞院副住職)
楽天・サイバーエージェントなど有⼒企業の上場を⼿掛け、「伝説の株式公開請負⼈(⽇
経新聞記事より)」と⾔われる。2000年〜2021年まで21年間、サイバーエージェントの
社外役員を務める。リカバリーインターナショナル株式会社(東証グロース:9214)社
外取締役。
宝瑞院(茨城県神栖市・浄⼟宗系単⽴寺院)副住職。中華⼈⺠共和国主治中医師(内科)、⼤阪⾳楽⼤学客員教授、情報経営イノベーション専⾨職⼤学客員教授、復旦⼤学(中国・上海)⽇本研究センター客員研究員。CIF認定TimeWaverセラピスト®。RYT200(Registry ID: 417550)、ディープマインドフルネス®ヨガ認定講師。
ファイブアイズ・ネットワークス株式会社
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研究調査等紹介
挑戦と失敗
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経営と仏教の真実
【経営者と爬虫類脳】 私は資本主義に嫌気がして仏教を選んだ訳ではなく、むしろ逆で、お金を儲けるにはありのままを見る必要があるとの思いが出家の動機でした。 私は株式公開の専門家で、上場を目指すベンチャーは常に新しいことを考 .....
資本主義と瞑想のただならぬ関係
★「1970年までの『米国革新の世紀」と、これからの米国を語る」からの続きです。 【アーバン・ブッディズム】 もう一つの収穫は、自身が唱えてきた「アーバン・ブッディズム」とは何かが、この書籍(「米国経済成 .....