ドイツの(失敗に)学べ!

 

ドイツの(失敗に)学べ!

川口マーン恵美

WAC

 

世界で「人権・環境全体主義」が猛威を振るっている。要するに、人権や環境を錦の御旗に、独善的なイデオロギーと強圧的な政治で、国民の自由な活動を抑圧しようとする勢力である。

確かに、彼らの言うことは耳障りが良い。だが、それは共産主義者たちが唱える「平等」という言葉と同じだ。「平等」という甘い言葉を流布した毛沢東、スターリン、ポル・ポトなどがどのような政治を行ったのかを考えれば、その欺瞞は明らかといえよう。

共産主義者(左翼)が自らを「リベラル」と嘯くように、実際には「国民のための」人権や環境には大して興味が無いのに、「人権・環境」を名乗るのが「人権・環境全体主義者」の特徴である。

本書において川口氏は、「人権・環境全体主義」がどのようにドイツを破壊し、国民を不幸にしているのかを、鋭い観察眼で指摘している。

ドイツの不幸に「アンゲラ・メルケル16年の独裁」が大きく影響しているという意見には全く同感だ。それ以前の「偉大な戦後復興」を成し遂げたドイツの姿はもはやないかもしれない。

悲しいかな、メルケル氏の後も、エネルギー不足が深刻な中での原発稼働全面停止など、ドイツを破壊する政策が続く現状が詳細に描かれている。

さらには、EUが「人権・環境全体主義者」の巣窟であり、問題はドイツにだけ存在するのではないことも本書の指摘の通りだ。

そして、このような深刻な状況になるまで、「人権・環境全体主義者」の欺瞞を「正義」として喧伝し、「不都合な真実」を「報道しない自由」を駆使して隠ぺいしてきた既存メディアの罪も暴く。

既存メディアは、最近やたらに「右傾化」を騒ぎ、事あるごとに「極右」というレッテルを貼りたがる。しかし、メデイアや欧州政治家が「人権・環境全体主義」の強い影響を受け、左傾化していることが大問題である。極左を含む左傾化したメディアなどが「右翼」とレッテルを貼る人々が、実は「一般国民」ではないだろうか?

すでに、ドイツの産業界は(ウクライナ、さらにはバイデン政権が関わったと報道されるガスパイプラインの爆破などによる)エネルギー不足を始めとする、政府の無策によって手痛い打撃を受けている。

事実、ドイツの2023年の実質GDP成長率はマイナス0.3%であり、2024年の実質GDP成長率予測はマイナス0.2%である。もし2年連続のマイナス成長となれば2002年・2003年以来、東西ドイツ統一後2度目となる。

そして、本書でも懸念されているのが、同じく「戦後の奇跡の成長」を成し遂げた日本の行方である。

日本でも「人権・環境全体主義者」が大きな勢力となっているが、今のところ欧州ほどではないと言える。だが、日本もドイツと同じような道をたどっているようにも感じる。

例えば、「不法侵入者」(不法入国者)問題。ドイツを始めとする欧州諸国衰退の大きな原因であることは明らかだ。「合法移民」でさえ社会の受け入れは簡単では無いのに、不法入国という罪を犯した犯罪者をきちんと取り締まれないのであれば、もはや法治国家とは言えないのではないだろうか。

本書が指摘するように、このような状況に国民がメリットを受けるわけでは無い。いったい誰がメリットを受けるのか真剣に考えるべきである。

幸いにして、現在「全面EV化」や「脱炭素」の欺瞞が明らかになりつつある。日本でも政府や多くの企業がそれらに踊らされたが、トヨタを始めとする気骨のある企業は「独自路線」を貫き、日本がドイツのようにならないよう懸命の努力を続けている。

我々は、「人権・環境全体主義者」のプロパガンダや政治的圧力に屈せず、トヨタのように「立ち向かう」企業や組織を応援すべきだ。

本書のタイトル「ドイツ(の失敗)に学べ!」は、今後の日本の発展を考える上で、重要なキーワードだといえよう。

(文責:大原浩)

 

 

 

 

 

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