『アトムの心臓「ディア・ファミリー」23年間の記録』、映画ディア・ファミリー原作

 

 

清武英利著、文春文庫

 

事実を基にした「ノンフィクション」である。

語り口は淡々としている。取り立てて激しい感情表現があるわけでは無い。

だが、登場人物たちの心の奥底から湧き上がってくる感情が、圧倒的な力で迫ってくる。徹底的に「家族の心」を中心に据えて物語を展開しているせいだと思う。

読めばわかるが、町工場のオーナーが無謀にも人工心臓の開発に挑んだ「開発物語」という「事実そのもの」が我々の心を鷲掴みにする。

それに加えて、可憐な少女が死の恐怖におびえながらも、けなげに生きるという抒情性が加わる。

家族の絆、いじめ問題、淡い恋心、宗教への傾倒なども織り交ぜながら展開する物語は「桜の花びらの運命」に集約されたといえるであろう。

医学的、工学的な事実もきちんと描写されていることが、物語をよりリアルなものにしている。

丹念な取材による物語が骨太であることによって、感動のボルテージが大きく上昇した秀作である。

 

参考書籍等紹介

ドイツの(失敗に)学べ!

  ドイツの(失敗に)学べ! 川口マーン恵美 WAC   世界で「人権・環境全体主義」が猛威を振るっている。要するに、人権や環境を錦の御旗に、独善的なイデオロギーと強圧的な政治で、国民の自由な活動を抑圧しようとする勢力で .....

「黄金の馬」 パナマ地峡鉄道 ー大西洋と太平洋を結んだ男たちの物語ー

      ファン=ダヴィ・モルガン著、中川 普訳、三冬社 本作品は、子供の頃夢中になって読んだロバート・L. スティーヴンソンの「宝島」を思い起こさせるところがある。子供向けの簡略版であっ .....

確率とデタラメの世界 偶然の数学はどのように進化したか

デボラ・J・ベネット白揚社

 「杞憂」という言葉があります。  中国古代の杞の人が天が崩れ落ちてきはしないかと心配したという、「列子」天瑞の故事から生まれました。心配する必要のないことをあれこれ心配することを意味しますが、「天が崩れ落ちてくる確率」 .....