スティーブ・ジョブズ⽒の法要

 

私達が提唱する「アーバン・ブッディズム」のロールモデルとして、私はスティーブ・ジョブズを取り上げておりました。知⼈のご案内でジョブズなどの写真展が開催されていることを知り、初⽇の9⽉5⽇(⽉)にシン・オープン・ラボ内にあるGALLERY空にお邪魔しました。

 

社会派カメラマンの⼩平尚典⽒、会場オーナーの中島⾼英⽒にご挨拶をして写真展を鑑賞していると、「沼⽥さん、出番です!」と予期せぬご案内がありました。メタバース寺院の状況を3分程度話し、約20⼈の参加者と名刺交換をしました。「共感」と「共創」の間に⽋けているもの、これを「化学変化」と捉え、この化学変化を産み出す場所がシン・オープン・ラボなのだそうです。この⽇、⼩さな共感が広がりました。これから始まる化学変化のプロセスに、私はワクワクしておりました。

「スティーブ・ジョブズの法要をお願いできないか?」と依頼がありました。ジョブズの命⽇は写真展最終⽇の10⽉5⽇、⽇本時間では10⽉6⽇なのだそうです。⼩平先⽣の作品群を遺影に、ジョブズを偲ぶ贅沢な趣向です。ジョブズは⾔わずと知れたアップルの創業者、「パソコン」や「スマホ」を形にした⽅です。「WEB2.0はジョブズから始まった」と⾔っても過⾔ではないでしょう。

ただ、ジョブズと仏教の関係は、それほど語られません。曹洞宗(禅宗)の傑僧・⼄川(知野)弘⽂に27年間師事し、永平寺(曹洞宗⼤本⼭)への出家を何度か考えたと⾔います。「ここに無いものは永平寺にもない」と、弘⽂は出家を思い留まらせます。私はこの⾔葉が好きです。

「ジョブズは曹洞宗、宗派が違います」と⼀度はお断りしました。法要は既存の寺院とも競合しますので、元来はお受けしない⽅針でした。

ただ宝瑞院は⼤乗仏教全体の観点から、仏教界のアップルを標榜するお寺、ジョブズは当初からのロールモデルです。「道元禅師様は54歳で遷化された。⼈間、ある程度の歳になったらおだてにも乗ってみるものだ」永平寺の貫⾸をされた故宮崎奕保禅師の⾔葉だそうですが、私も今や58歳、僭越ながらこのお話、お受けしたいと思いました。私が宝瑞院に参加してから、はじめての宝瑞院が主催する法要となりました。

【2⼈の阿闍梨との作戦会議】

この9⽉5⽇(⽉)の⼣⽅、⾼野⼭真⾔宗の阿闍梨(位の⾼い僧侶)2名を交えた会⾷がありました。法要の相談・依頼をしたところご快諾いただき、期せずしてこの会⾷がキックオフとなりました。

真⾔宗での供養には、⼟砂加持、⼤曼荼羅供もありますが、準備が⼤変な上、私には⼿に負えません。そこで中曲理趣三昧が良いだろう、という話になりました。ただ密壇等法具の確保が難しく、全体で1時間という時間の制約もありました。ここからは激動の1ヶ⽉となりました。

スティーブ・ジョブズを研究し、法要の次第を考えながら、それに相応しい法具を整え、役割分担を決め、習礼(練習)を開始しました。ジョブズの実際の葬儀でも使われたと思われる⼤悲⼼陀羅尼は、現在の真⾔宗では読まれないお経、私はYou Tubeを参考に1⽇に何回も練習をして体に馴染ませました。

知り合いのミュージシャン、演出家にも相談しました。法要は故⼈を偲ぶ宗教⾏事、エンターテインメントではありません。この辺りの説明が難航しました。

仏教に精通した芸⼈さんにも司会を依頼しました。TVにも出演する⽅、笑いを誘うとの反対が出ました。

来年はジョブズの13回忌、私達の本堂で、再チャレンジをしたいものです。

万策尽きる中、⾜元を照らすと、⾜⽴阿闍梨は仏教各宗派に精通し葬儀会社を経営、会場設営・法要進⾏のエキスパートでした。⽮野阿闍梨は⼤⼿広告会社出⾝のプランナー、私の修⾏仲間でしたが、⾼野⼭の所作にも精通しておりました。必要な資源は私達の中にありました。

さらには40年前に孫正義⽒にビル・ゲイツ⽒を紹介したというカメラマンの⼩平尚典⽒から会場設営のご指導を頂き、⽴地条件をフル活⽤したオンリーワンの祭壇ができました。

皆様が「アーバン・ブッディズムの観点では・・・」と⾔いながら、私たちの理念の現実化に注⼒して下さいました。祭壇⾃体がささやかな化学反応の産物でした。

【アーバン・ブッディズムの始動】

 スティーブ・ジョブズに関する書籍も10冊前後準備しました。「宿無し弘⽂ スティーブ・ジョブズの禅僧」以外、仏教関連の情報は、ほとんどありませんでした。そのうちに「伝記を読んで何になるんだ、お前が正しいと信じることをやり通すこと、それが私への供養だ!」との声が聞こえました。

先達の僧侶2名は真⾔宗、私は浄⼟宗系単⽴寺院の副住職、仏具は⾜⽴阿闍梨が曹洞宗の著名な改⾰派寺院から、祈り込まれた極上の品を準備して下さいました。

⽮野阿闍梨は真⾔宗の法式で、⾜⽴阿闍梨は曹洞宗の法式でそれぞれ頭を務め、私は曹洞宗の鉢捌きと南⼭進流(⾼野⼭真⾔宗の⼀流派)の節回しで讃頭を務めました。私たちなりに曹洞宗を取り⼊れ、スティーブ・ジョブズ⽒の⽣涯を偲ぶパノラマとして次第を構成しました。

私は剃髪をしませんでした。ジョブズの師・弘⽂は⽶国では剃髪をしなかったようです。

剃髪は⼀説では、カースト社会の最下層にいる事を表しました。僧侶の袈裟は「糞掃⾐」とも呼ばれます。お釈迦様の時代、僧侶は社会の底辺に寄り添う存在だったようです。弘⽂がなぜ剃髪をしなかったのか、⽶国には⽶国の仏法や禅があっても良い、とのお考えからかもしれません。

⽇本でも浄⼟真宗は剃髪をしませんが、これは⼤乗仏教の観点から僧俗を隔てるのはおかしい、という意味かと思います。弘⽂も同じ考えだったのかもしれません。

法要本体の時間は20分としました。葬儀場での読経は流れ作業、よく「20分でお願いします」と⾔われるそうです。時間を守らないと⽕葬場は混乱します。これからの法要を考える上で、20分という簡潔さも重要だと考えました。弘⽂師が仕切ったジョブズの結婚式も20分でした。

私は毎朝、30分〜40分程度読経します。20分では少し物⾜りなく感じます。ただ現代はスピード社会、You Tubeも短編ものが⼈気を集めております。こちらは結果的には正解でした。

⾜⽴阿闍梨の発案もあり、これからの法要の形として、参列者全員で読経を交えました。法要の主役は僧侶ではなく参列者です。理趣経百字偈、光明真⾔、南無釈迦牟尼仏を法要直前に練習し、全参列者でジョブズの魂を偲びました。

百字偈は真⾔密教の秘経・理趣経の中核、簡潔な上絶⼤な功徳を持つお経ですが、⼀般の⽅が読むことはあまりありません。事前にお経の意味や次第の構成を丁寧にご説明しました。3⼈の僧侶が集まると、功徳は10倍になります。お経を理解する参列者は僧侶と同じ、その功徳は100倍にも200倍にもなることでしょう。

そして「今回、お経は厳(おごそ)かには読まず、⽇頃の鬱憤をお導師様に⼤声でぶつけて下さい」と呼びかけました。ジョブズは仏教に激しく現世利益を求めました。弘⽂師は⼿を変え品を変え「そんなものは⼿放せ」と教えたのかもしれません。弘⽂師はそうした衆⽣を抱きかかえ、「望んで地獄に落ちた」とも⾔われます。

リハーサル無しのぶっつけ本番での法要となりました。10年ぶりに柄帯を着けた私は所作を何度も間違え、頭の中が真っ⽩になりました。正しい所作は正しい教えと共鳴し供養となります。如何に斬新でも「仏様との対話」が無ければ、法要の意味はありません。滝⾏をしてお酒と⾁を断ち、⾃分なりの準備は整えました。

しかしもはやこれまで、そう思った瞬間に「だいしぃしんせいし〜こうさくしゅうせいり」と参列者の百字偈の叫びが沸き上がりました。「ジョブズの魂が仏の光に包まれた!」と感じた瞬間、体の⼒が抜けました。

参列していた霊能者は「ジョブズの魂が沼⽥さんに乗り移るのが⾒えた」と⾔います。意識は明確でしたが呼吸が深くなり、仏を全⾝で感じました。仏を感じた参列者が、他にも何⼈かいらっしゃったようです。法要の威⼒、僧侶としての修⾏の重要性を痛感した1⽇でもありました。ご参列・ご協⼒頂きました皆様には、⼼より感謝申し上げたいと思います。

 

化学変化はさらに広がります。10⽉11⽇(⽕)の10⽉明恵会(メタバース寺院公開企画会議)で⼩平先⽣、中島社⻑をゲストにお呼びして、これからの仏教についてパネルディスカッションを開催しました。⼩平先⽣のアニミズム論、中島社⻑の社会的な問題意識、どちらも私達のアーバン・ブッディズムと⼤いに共鳴しました。

四季折々の⾃然の豊かさ、太陽・⽉の微妙な変化で変わる⾵景、これこそスティーブ・ジョブズが愛した⽇本であった、と⼩平先⽣は⼒説されます。都市で⽣活する⽇本⼈は、⽇本の中でこうした⽇本を忘れがちになるものです。仏教寺院が衰退する中で、失われゆく⽇本の⾃然の恵みをメタバース上に再現する、そんな可能性を感じる対談でした。古いものが案外、⼀番新しいのかもしれません。

◎本レポートは、リアル曼荼羅プロジェクト・メルマガ32【2022年10⽉・11⽉号】

の文章を大原浩の責任で抜粋・編集したものです。

★沼⽥榮昭(リアル曼荼羅プロジェクト主宰)、 人間経済科学研究所フェロー

楽天・サイバーエージェントなど有⼒企業の上場を ⼿掛け、⼤和証券株式会社公開引受部勤務時代から 通算して、70社強の株式公開を実現、「伝説の株式 公開請負⼈(⽇経新聞記事より)」と⾔われる。上場会社⽣涯100社構想に向けて、スタートアップ企業の発掘・育成・投資に現在も邁進。

2000年〜2021 年まで21年間、サイバーエージェントの社外役員を務める。⽇本証券アナリスト協会検定会員(証券アナリスト)。

⾼野⼭真⾔宗⼤⽇寺(代々⽊⼋幡)で得度、紫雲⼭宝瑞院(仏教寺院)副住職(就任予定)、復旦⼤学(中国・上海)⽇本研究センター客員研究員、⼤阪⾳楽⼤学客員教授、中華⼈⺠共和国主治中医師(内科)。真⾔密教、統合占星術・星平会海、量⼦⼒学波動デバイスTime Waver等を取り⼊れた「株式公開レベル」の経営⽀援を実施。

★ファイブアイズ・ネットワークス株式会社

 〒150-0044 東京都渋⾕区円⼭町5-4

 フィールA渋⾕1402号 isao.numata@5is.co.jp

 

研究調査等紹介

「内陣」の心にしみ込む仏教体験

    日経平均は34年ぶりに過去最高値を更新、日本は株価の面では長い停滞を脱して、ようやく新しいステージに入りました。資本市場の一員として、この34年の停滞の反省と責任を、次の世代に繫げていきたいと、私も決意を新たにし .....

座禅をすれば仏になれるのか

      【「悟るため、往生するための仏教」と「現世利益のための仏教」】   勝手な理論ですが、私は「悟るため、往生するための仏教」と「現世利益のための仏教」を敢えて分けて考えてみました。   もっとも「悟る」と「往生 .....

情報化社会と都市型仏教、そして檀家制度

私は最近、「情報化社会に対応した仏教」のことを考えております。 仏教には1,500年の伝統がありますが、社会も経済も変化を遂げる中、ある時期から農業集落にフィットした仏教が、現在までそのまま伝えられているように感じます。 .....

米国の「2極化」と仏教

      【⽇本国⺠誰もが皆、宗祖になるべき時代】 私は宝瑞院の副住職(仏教者)であり責任役員(経営者)でもあります。この「仏教者」と「経営者」のベクトルは必ずしも⼀致しません。 やりたいのは新しい仏教ですが、求められ .....