スティーブ・ジョブズの「生涯の師」

 

 

米国・聖フランシスコ会の修道女シスター・テレサは修道服のまま得度を受け、修道服のまま朝晩の坐禅や接心をします。

シスター・テレサは語ります。「宗教に形式を求めるなら宗教をミックスしてはいけない、けれども真実を求めるならまったく問題はない、なぜなら、さまざまな宗教は、根柢のところで必ずクロスしているからです。」 

 

宿無し弘文

Appleの創業者・スティーブ・ジョブズが「生涯の師」と仰いだ乙川弘文は、日本ではほとんど知られていない、曹洞宗の僧侶です。

弘文が開創し、ジョブズが学んだ米国・慈光寺を、弘文は敢えて、曹洞宗に届け出を出さなかったと言われます。

弘文に20年間仕えたアンジィ・ポアサヴァンは、「弘文は、曹洞宗を布教したかったわけじゃない、法(ダルマ)、つまり仏陀の教えを伝えたかったのです」と言います。

日本式の禅をアメリカ人に押し付けようとはせず、アメリカにはアメリカの禅があって良い、と考えておりました。

「外国人の私がリーダーになるべきではないんだ、文化の違いは大きいし、自分はその事実に繊細でありたい」と、弘文は語りました。

これは「宿無し弘文 スティーブ・ジョブズの禅僧(柳田由紀子著 集英社インターナショナル)」に記された話です。

 

アーバン・ブッディズム

3年前にお会いしたカメラマンの小平尚典さんから「スティーブ・ジョブズの仏教を日本のIT経営者にも伝えたい」との示唆を頂き、私はこの本に辿り着きました。

22年間の米国生活の中で小平さんは、孫正義にビル・ゲイツを紹介するなど、日本のITビジネスにも大きな貢献をされる一方で、高野山などの神社仏閣の写真も多く手掛けられ、日米両国のITビジネスと仏教に精通しておられました。

小平さんとの打合せのために、ジョブズの伝記や評論を何冊か読みましたが、ジョブズと仏教の関わりは、こうした書籍では、ほとんど語られてはおりませんでした。

小平さんが体感された「ジョブズの禅」をご教示を頂く時間は乏しかったのですが、ここが私の「アーバン・ブッディズム」の起点ともなりました。

弘文の慈光寺には、警策(きょうさく)を用いない、門は開けたままで、好きな時に坐禅をやめ、極端な話、外に出て行っても構わない、といった風習がありました。

マインドフルネスの創始者・ジョン・カバットジン博士のレッスンには、この風習が今も引き継がれているようですが、因果関係の有無は定かではありません。

私はジョブズが学んだ仏教を、弘文が考えるお釈迦様の教えを、実態は不明な部分が多いのですが、現代の日本人に向けてお伝えしたいと願っております。

 

フリーセックスの嵐

フリーセックスの嵐が吹き荒れる米国で、「弘文は率直に、自然に、男女関係を持ちたい、家庭を作りたいと思ったのではないか」と最初の恋人と目されるルース・バーナートは語ります。

仏教の伝統でもある独身主義は日本では壊滅しておりますが、その日本の曹洞宗の中でも、弘文の女性関係は評判が悪かったようです。

一方のジョブズも道徳的に正しい人であったかといえば、様々な疑問符が付くことと思います。

一例として自分の子供を認知せず、パイプカットをしているから子供は産まれないと嘯き、DNA鑑定で負け、Appleの上場に支障をきたす直前の上場4日前に、しぶしぶと養育費の支払いを認めております。

上場後であれば養育費も跳ね上がっていた事でしょう。

ジョブズや弘文が仏教界で取り上げられないのには理由があるのです。

弘文のジョブズへの指導は1対1で行われており、指導内容は全く分かりませんので、ここからは少し私の想像が混じったお話です。

若いジョブズは権力欲・成功欲の権化である一方で、平和・調和を基軸としたヒッピー運動の申し子でもあり、その心の矛盾に苦しみました。

禅はヒッピー運動の文脈で米国で流行し、ジョブズはビジネスに失敗した際の保険も兼ねて、総本山である永平寺での修行を希望します。

弘文は「ここにないものは永平寺にもない!」とジョブズの退路を断ちますが、私はこの言葉が大好きで、座右の銘としております。

「ここに」は「場所」を意味する言葉ですが、私は「ビジネスの中に」という意味とも捉えております。

 

超能力者!?

確証はありませんが、弘文は超能力者でした。ジョブズが弘文に心酔した理由の一つには、この超能力もあったようです。

超能力や霊能力と仏教は、基本は関係ありませんが、真摯に仏教を学んでいると様々な形で、超能力や霊能力との接点が生じる場合があります。仏教理論は本来、超能力や霊能力と同じフィールドから発生しているのでしょう。

若き弘文は京都大学出身の理論派の僧侶、学生時代のノートを見ると、西洋哲学との対比などに溢れ、純真で学究的な、超能力とは対極の僧侶でした。

浄土宗の宗祖・法然上人も、おそらくは超能力者でした。

法然上人も若い時分は理論派のエース、周囲からは勢至菩薩の再来と言われ、一切経(すべてのお経)を五回読み通したと言われます。

法然上人は浄土宗を開宗され、称名念仏にはこだわりますが、他宗派を誹謗中傷もしくは否定する言動は、記録には見られません。

所謂「称名念仏」は真言密教の聖地・高野山でも流行し、中興の祖とされる覚鑁上人に引き継がれますが、これは弘法大師をも凌ぐ法力の賜物でもあったのでしょう。

法然上人は生涯清僧を貫きますが、同時代の式子内親王が「玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする」と詠んだ恋歌のお相手は、私は法然上人ではないかと考えております。

頭脳的・視覚的な仏教を、身体的・聴覚的な仏教へと導いたのが法然上人ですが、身分の上下を越え多くの女性が、これを熱狂的に歓迎したのでしょう。

死の病に臥し法然上人の来訪を乞う式子内親王に、法然上人は極楽での再会を約す長文の返信を認めます。

「称名念仏では成仏できない」という、宮中の高僧方の大合唱の中でも、一流の女流歌人の感性は、論理を越えた本物を、感じ分けることができたのです。

 

シスター・テレサ

弘文は「天地も施し、空気も施し、水も施し、植物も施し、人も施す、施し合い、我々はこの布施しあう中にのみ、生きている」という禅の世界を生きました。

米国・聖フランシスコ会の修道女シスター・テレサは、弘文との1対1での接心に敢えて通訳を付けずに臨みました。

「それまで接したどんな修道士や修道女よりも弘文は、聖フランシスコその人を理解していると感じました。そして、弘文に、キリスト教や仏教といった宗派を超えた、真の宗教家の清らかな魂を見出したのです」とシスター・テレサは語ります。

女性の神仏への感性には、私はいつも驚かされます。シスター・テレサはその後、弘文の元で得度をしました。

 

◎本レポートは、<宝瑞院副住職 沼田 榮昭のマニアックなメルマガ 07 【2024年7月】>を大原浩の責任で編集したものです。

 

★沼⽥ 榮昭(宝瑞院副住職)

楽天・サイバーエージェントなど有⼒企業の上場を⼿掛け、「伝説の株式公開請負⼈(⽇経新聞記事より)」と⾔われる。2000年〜2021年まで21年間、サイバーエージェントの社外役員を務める。リカバリーインターナショナル株式会社(東証グロース:9214)社外取締役。

 

宝瑞院(茨城県神栖市・浄⼟宗系単⽴寺院)副住職。中華⼈⺠共和国主治中医師(内科)、⼤阪⾳楽⼤学客員教授、情報経営イノベーション専⾨職⼤学客員教授、復旦⼤学(中国・上海)⽇本研究センター客員研究員。CIF認定TimeWaverセラピスト®。RYT200(Registry ID: 417550)、ディープマインドフルネス®ヨガ認定講師。

 

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