情報化社会と都市型仏教、そして檀家制度

私は最近、「情報化社会に対応した仏教」のことを考えております。

仏教には1,500年の伝統がありますが、社会も経済も変化を遂げる中、ある時期から農業集落にフィットした仏教が、現在までそのまま伝えられているように感じます。この点は日本の仏教の長所と見ることもできる一方で、仏教寺院が衰退する構造的要因にもなっているようです。

日本には7万7千のお寺があると言われますが、同じシステムでお寺をもう一つ作っても、このリスクからは逃れられません。

前例のない処方箋にチャレンジすることが、私の役割なのかもしれません。

農業は共同体の結束が重要で、結束が乱れると、かつては生命すら脅かされました。思想・信条の自由といった工業化社会の発想は、農村には馴染みません。こうした基盤の上にお寺が展開され、人々は生まれた場所により所属する共同体と寺院・宗派が決まり、ほぼ自動的に檀家メンバーとして継承されていきました。

お寺にはご先祖様のお墓があり、共同体に所属する限り、檀家を抜けることは難しいですし、お寺の側も、過疎化・高齢化が進みお寺の維持が経済的には厳しくても、廃業したり移転することは難しいと思います。

お寺と農村集落は排他的なコミュニティを形成し、日本の大自然や四季に寄り添い、自然に融和的な、日本独特の仏教を練り上げてきました。

工業化社会に入ると、都市・工業地帯へと若者は移住し、農村の高齢化と過疎化がはじまります。運命共同体でもある仏教寺院も、農業集落と運命を共にします。仏教と農村が強く結合し、日本には都市型仏教が育ちませんでした。

真言密教は中国では都市型宗教でしたが、日本では自然崇拝、山岳修行の宗派として発展しました。

都市部の富裕な寺院も、コンテンツは鎌倉時代を踏襲したままです。仏教改革を志しても、鎌倉時代や農村から、日本人の意識が抜け出せない一方で、そこに世界の注目が集まる面も見られます。

【寺と地域社会】

お寺の衰退は、お寺だけが衰退している訳ではありません。同時進行で、地域の農林水産業が元気を失い、過疎化や少子高齢化、環境破壊が進行し、地域交通が麻痺して、地域介護が崩壊していきます。

お寺の衰退は、仏教の衰退によるものではなく、地域社会の衰退なのです。檀家制度を廃止しても、葬式仏教を改善しても、地域社会が衰退する限り、お寺だけが助かる方法は見つからないように思います。

ただこの強固な地域社会との連携が、世界の先進国が失った、日本仏教のアニミズム的な心情を現在に伝えているとも言えるのかと思います。

そんな中で私は、新しい仏教のあり方を構想しております。

お寺をコミュニティ・ビジネスの一種として捉えると、コミュニティの作り方を工夫することが、改革のスタートだと思います。

檀家制度は、土地に紐づいた農村コミュニティですが、先祖代々の祖霊が眠る中で、これを解体していくのは現実的ではない地域も多いと思います。この農村コミュニティを「強み」と捉えて活かしながら、情報化社会に適合したコミュニティに作り替えることができないか、私はそんなことを考えております。

もちろん難題は山積し、前例がない世界ですが、前例のないことにチャレンジを繰り返してきた私には、似合っている仕事なのかもしれません。

◎本レポートは、<宝瑞院副住職 沼⽥ 榮昭のマニアックなメルマガ 03【2024年3⽉】を大原浩の責任で編集したものです。

★沼⽥ 榮昭(宝瑞院副住職)

楽天・サイバーエージェントなど有⼒企業の上場を⼿掛け、「伝説の株式公開請負⼈(⽇経新聞記事より)」と⾔われる。2000年〜2021年まで21年間、サイバーエージェントの社外役員を務める。リカバリーインターナショナル株式会社(東証グロース:9214)社外取締役。

宝瑞院(茨城県神栖市・浄⼟宗系単⽴寺院)副住職。中華⼈⺠共和国主治中医師(内科)、⼤阪⾳楽⼤学客員教授、情報経営イノベーション専⾨職⼤学客員教授、復旦⼤学(中国・上海)⽇本研究センター客員研究員。CIF認定TimeWaverセラピスト®。RYT200(Registry ID: 417550)、

ディープマインドフルネス®ヨガ認定講師。

ファイブアイズ・ネットワークス株式会社

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