ファスト&スロー あなたの意志はどのように決まるのか?(上)

ダニエル・カーネマン 早川書房

心理学者でありながらノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンが、一般向けに行動経済学の基礎を解説した非常に読みやすい本です。表題の通り「システム1=ファスト=直感」と「システム2=スロー=思考」が中心となって展開します。

どの章も非常に興味深いのですが、今回は特に第20章<妥当性の錯覚>を取り上げます。この中で、ウォーレン・バフェットが常に主張している「株式の売買は少ないほどいい」と「投資信託を買うのであれば手数料の安いインデックス・ファンドしか考えられない(人間が運用する投資信託は買うべきではない)」について、素晴らしい「科学的証明」が行われています。

カリフォルニア大学バークレー校金融工学教授のテリー・オディーンが某証券会社顧客1万人(取引数は16万3000件、その多くが男性)について行った調査によれば、投資家がA株を売ってB株を買った場合、平均で(売った)A株の方が3.2ポイント年平均でより高く上昇していました。(手数料は別)。要するにあれこれ考えて売買せずに、最初の株をそのままっ持っていた方が良い結果であったということです。

また、彼と同僚のブラッド・バ―バーとの共同研究では、「平均的には、最も活発な投資家(売買回数が多い)が最も損をし、取引回数の少ない投資家ほど儲けが大きい」ことが確かめられていいます。バフェットの主張通り、売買すればするほど損をすることが明らかになりました。

また、男性は「無益な考え」に取りつかれる回数が多く、その結果、女性の投資実績は男性を上回ることも示しています。これも私の観察結果に一致します。

さらに、50年間にわたる調査によれば、投資マネージャーの運用成績はサイコロ投げにも劣ります。少なくとも投信(ファンド)の3件に2件は、市場全体のパフォーマンスを下回っていました。サルに任せるか、コイン投げで運用した方がましということです。あるいはバフェットが主張するように手数料が安いインデックス・ファンドを購入すべきでしょう。

最後に、ダニエル・カーネマン(2002年に「プロスペクト理論」によってノーベル経済学賞を受賞)の某金融機関運用マネージャー25名8年間の運用成績を研究した結果は、「28個の相関係数(1年目と2年目、1年目と3年目・・・7年目と8年目まで28組の

ペアをつくり相関係数を求めた)は、0.01であった」という研究結果が紹介されています。

つまり、これらの運用成績に相関関係は無い=担当者のスキルによる運用成績への影響はゼロという結果になったのです。

カーネマンは、情報提供先の金融機関にこの研究成果を報告しましたが・・・・その結果はご想像の通りです・・・

まあ、キリスト教の牧師に「研究の結果神は存在しないことがわかりました」というのと同じで、自分の<おまんま>の食い上げ(特にファンドマネージャーは高給)になるような意見は無視するか、それとも魔女裁判のような形でたたきつぶすしかないのでしょうね・・・

<文責:大原浩>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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