ネクスト・ソサエティ
P. F. ドラッカーダイヤモンド社
日本語版の発刊が2002年ですから、ドラッカーが執筆したのは15年から20年ほど前になります。本書は、その時点でドラッカーが把握した「すでに起こった未来」について記述した内容です。
今回改めて読み直してみて、ドラッカーの指摘の正確さに驚かされます。第1部~第3部までのインターネットやEコマースを含めた多種・多様なビジネスに関する記述も非常に価値がありますが、今回は第4部の<社会か経済か>の内容に注目したいと思います。
第1章では、1000年におよぶ社会と経済の歴史を踏まえて、現在の先進国ではあたり前となっている「国民国家」に焦点を合わせています。国民国家を超えたグローバル企業の活躍が目立ちますが、国民国家とグローバル企業との間の綱引きの行方が、未来を大きく左右するということです。
第2章では、国境を越え、実体経済をはるかに上回る巨額のマネーが飛び交うグローバル経済について論じています。
例えば、「自国通貨が安くなる(円安・ドル安)と輸出が増える」ということが、いまだにまことしやかに論じられていますが、必ずしもそうでは無いことを、過去の実例を挙げて検証しています。1983年にレーガン政権と日本政府が1ドル250円のレートを放棄し、ドルが円に対して50%以上下落したときに、米国の対日貿易赤字はさらに拡大しました。
一つの理由としては、統計上貿易とされているうちの4割(本書執筆当時、ドラッカーは今後さらに増えると述べている)が、東京の本社とインドネシアの工場との間の取引のような本支店取引に類するものであることがあげられます。このような取引は、為替レートと関係無く行われます。
第3章では、日本の官僚システムについて述べています。まず、日本特有のものと思われている官僚システムは、米国を除く先進国共通のものであり、天下りは欧州諸国(さらには米国)では日本以上に広範囲で行われています。日本との違いは、単なるお飾りではなく、天下った役人がその企業で業務上の権限を強く持つことです。
また、のらりくらりと何もしない「先送り戦略」にも高い評価を与えています。急激に改革を行うことによって生じる社会的混乱を、最小限にとどめることができるからです。
例えば、過去農業の補助金は1円足りとも日本の農業の発展に役立ったことはありませんが、1950年には人口の60%もいた農民が2%程度まで激減する過程で、日本において一度も農民の暴動が起きなかったのは、農民に飴を与え続ける先送り戦略のおかげです。
<文責:大原浩>
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