ダニエル・カーネマン心理と経済を語る
ダニエル・カーネマン 楽工社
本書が2011年の3月に発刊されたときには、著者自身の手による一般向け書籍である「ファスト&スロー」の翻訳本がまだ出版されていなかったはずなので、ノーベル賞受賞講演や共同論文をまとめた本書にも一定の価値があったと思いますが、「ファスト&スロー」があまりにも完成度が高くわかりやすい本なので、そのあとに読むと物足りなさを感じます。
- 第1章の「限定合理性の地図」は、2002年のノーベル賞受賞講演
- 第2章の「自伝」はノーベル賞受賞の際に発表されたもの
- 第3章の「効用最大化と経験効用」は、シカゴ大学のリチャード・セイラーとの共著論文
- 第4章の「主観的満足の測定に関する進展」はプリンストン大学教授、アランクルーガーとの共著
という構成ですが、1)と2)については「ファスト&スロー」を読むことをお勧めします。3)と4)の共著論文についてはいくつか興味深い内容がありました。
お腹がすくと怒りっぽくなる人は多いと思いますが、私もその一人です。過去、おなかがすいているときに投資判断をして、後で「しまった!」と思ったこともあります・・・
3)では、そのように現在の感情の状態が、将来の状況を推測するときの判断に誤った影響を与えることについて論じています。特に興味深いのが、「ヨーグルトを同じ量買うときに、少しずつ分けて買う場合よりも、まとめて買うときの方が多くのバラエティを選択する」ということです。
朝食のときに「今日は何味にする?」という問いにほぼ99%「プレイン」と答える人でも、30個まとめて買うときには、イチゴ味やパイナップル味などを加えて買う傾向にあるということです。
- ではU指数に注目すべきでしょう。人間の快・不快は、極めて主観的ですが、その主観を、思い切って「不快を感じている時間の長さ」に集約した指数です。これにより、快・不快を計数的に扱うことが可能になりました。
そして、最も注目すべきは、日本の高度成長時代(1958年〜1987年)には実質所得が5倍になり、チャイナの改革開放後期(1994年〜2005年)にかけて同じく2.5倍になったのにもかかわらず、日本では自己申告された幸せの平均値は上昇せず、チャイナでの生活満足度はむしろ悪化したことです。
人間の満足度というのは、極めて相対的なものなのです・・・
<文責:大原浩>
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