イマココ 渡り鳥からグーグル・アースまで 空間認知の科学

コリン・エラード早川書房

「空間認知」について、生物や有史以前の人間、さらにはサイバースペースまで幅広く論じた本です。前半から中盤にかけての学術的内容は非常に興味深い内容ですが、終盤にかけての現代社規との関連について論じた部分は極端につまらなくなります。

デカルトの有名な「われ思うゆえに我あり」の言葉で語られる人間の自我は、「空間認知」の能力から生まれたといわれます。つまり、空から地面を見ることをイメージして第三者的に自分(の位置)を把握する能力こそが自我の根源です。

ちなみに、他のほとんどの動物は、自分の視点からの空間認識しかできず第三者的な空間把握ができないため、自我が存在しないようです。

本書の肝は、「イソビスタ」と「(距離では無く)交接点による空間認識」です。

「イソビスタ」は、簡単に言えば自分が見える(相手からも見える)範囲のことです。この値を、自分の身をある程度隠しながら、空間の状況をできる限り把握できるようにすることによって、人間の行動を左右することができます。つまり、ショッピングモール、病院、オフィスなどの設計において基本となる考えです。

「(距離では無く)交接点による空間認識」は、手書きの地図を思い浮かべればすぐにわかります。道路や線路の距離はほとんど無視され、どことどこがつながっているのかが極端に拡大・強調されます。

このような特殊な空間認識は人間特有のものと言ってよく、他の動物は距離も含めた正確な空間認識を行っているため、人間のようにしょっちゅう道に迷ったりしません。

しかし、このように交接点だけによって空間認識をする人間の脳力があったからこそ、サイバースペースが生まれました。サイバースペースには<距離>というものが存在せず、カナダ・トロントのサーバー上にあるホームページと私のパソコンとは(サイバー空間上で)隣り合っています。

なお、第11章<自然空間>以降は、地球温暖化教やマスコミのプロパガンダに洗脳された戯言ですので読む価値は無いと思います。

<文責:大原浩>

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