トコトンやさしい下水道の本

高堂彰二日刊工業新聞社

ベルサイユ宮殿にトイレが無かったというのは有名な話ですが、どうやら王侯貴族用のおまるなどは準備されていたようです。ただ、使用人はもちろんのこと、訪問客用のトイレは無かったようで、おまるを持参するか階段の裏などの物陰で用を足していたというのは事実のようです。用を足すために、あのゴージャスなスカートが発達したというのもうなずける話です。

また、シャーロックホームズの頃のロンドンの衛生状態もおぞましいものでした。馬の落し物が道にあふれていただけでは無く、家の2階から汚物を道路にぶちまけるのは当然で、雨になるとぬかるむ地面で滑らないようにステッキが、2階からの汚物対策として山高帽とフロックコートが発達したと言われます。女性のハイヒールも、地面との設置面積を減らすのが当初の目的だったそうです。

それに対して日本では、江戸時代からし尿は農業に使う貴重な(リサイクル)資源として有料で取引されました。長屋の大家は、店子のし尿を販売して儲け、その分いくらか家賃を安くするということもあったそうです。ちなみに、し尿の価格ランキングは、いいものをたくさん食べて栄養豊富な武家屋敷がトップで、牢屋は最下位だったそうです。

このようなリサイクルシステムが完備していた江戸の町は、大変清潔で、コレラが大流行するような不潔な街からやってきた欧米人は大変驚いたそうです。

世界一清潔好き(今でもフランス人には1週間くらい風呂に入らない人物がたくさんいます)な日本の生活を支えているのが、下水です。普段あまり考えることが無い分野ですが、高度な文明生活を営むために不可欠なものであり、本書は要領よくその内容をまとめています。

また、下水に含まれるリンは有用な成分ですし、下水の流れは小水力発電など再生可能エネルギーに利用することもできます。

<文責:大原浩>

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