ドラッカー 20世紀を生きて 私の履歴書
ピーター・ドラッカー日本経済新聞社
日本経済新聞の「私の履歴書」で27回にわたって連載された内容を本にまとめたものです。ドラッカーの著作の中には「傍観者の時代」という自伝的要素が強いものがあるのですが、その本と重複する部分がかなりあります。もし、どちらか一冊ということであれば、「傍観者の時代」をお勧めします。
本書や「傍観者の時代」を読んで痛感するのは、ドラッカー自身の人生そのものが近代史ともいえ、大いに興味をそそられるということです。父親や祖父がオーストリア(ハプスブルグ帝国)の高官という名家に生まれながら、第1次世界大戦後の帝国崩壊によって、波乱万丈の人生がスタートします。
ナチスに批判的と解釈される本の出版(の企画)などで、ドイツにとどまることが難しくなり、英国を経て米国に移り住みます。「経済人の終わり」はチャーチルに書評で絶賛された本ですが、その中でソ連とナチスは将来手を結ぶと予想し、それは半年後に現実のものとなりました。共産主義の本質(ナチスと同じ独裁主義)を見抜いた眼力はさすがです。
その後、タイム(週刊誌)の編集者のポストをオファーされますが、社内にはびこっていた共産主義勢力からの攻撃を恐れて辞退しています。現在のマスコミにもうんざりするほど共産主義者がはびこっていますが、当時のマスコミも似たような状況だったようです。
本書で初めて知ったのが、実はドラッカーは、ヒットラーをはじめとするナチス政権の幹部に記事のためのインタビューを直接行っていたことです。まさに歴史の一部ですし、ドラッカーのナチス批判も、相手をよく知ったうえでのことだということになります。
また、ドラッカーが関わり、GMが1947年に実施した大規模な従業員意識調査の結果は、労働組合の猛反対でそのデータを使用できず、お蔵入りになってしまいました。労働組合幹部としては、組合員が経営のことに興味を持って知的レベルが向上しては困るということだったようです。彼らとしては、組合員があくまで無知蒙昧で指導者のいうことを素直に信じ、経営者と対立するように仕向けたかったのでしょう。まさに、共産主義的手法ですね。
実は、このデータを借り受け有効に活用したのが、1950年の経営危機に直面したトヨタ自動車です。その後のGMとトヨタの栄枯盛衰を考えると、このあたりで流れが切り替わったのかもしれません。
<文責:大原浩>
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