ドーキンス博士が教える「世界の秘密」

リチャード・ドーキンス早川書房

「生物は遺伝子の乗り物である」という視点から40年以上前に「利己的な遺伝子」という著書を著し、世界の生物学のみならず思想界・哲学界などにも衝撃を与えたリチャード・ドーキンスが「科学的視点」から<世界・宇宙>について解説した本です。

大判で挿絵が満載の装丁は、まるで子供向け絵本のようですが、中身はしっかりしています。

もちろん、他のドーキンスの著書のように、読むのに気合が必要な類ではありませんが、極めて簡略に物事の本質を説明しています。

取り扱う範囲は、ドーキンスの専門である生物学・動物学はもちろんのこと、大陸移動・地震や物質の本質・宇宙論にまで至ります。ドーキンスのような「革新的」な思想の持ち主は、広い範囲において深い教養を持っているのだということを痛感します。

生物学・動物学をはじめとする自然科学の入門書としても楽しめますが、それよりもドーキンスの著作を何冊か読んだ後、彼の思想体系のまとめとして読んだ方が面白いと思います。

「宗教は妄想である」等の著書を著し、宗教否定論者であるドーキンスが、本書の各章を「神話」から始めているのは面白い試みです。

誤解されがちですが、宗教否定論者は「宗教というファンタジー」が嫌いなわけではありません。

例えば、私も他の多くの人々と同様にディズニーランドのミッキーマウスやエレクトリカルパレードは大好きです。ディズニーランドという特殊な空間で「夢の世界」をエンジョイするのは決して悪いことではありません。

宗教とは、「ミッキーマウスが神の子で、人類の現在を背負って十字架にかけられた(ちょっと血生臭い話ですが・・)」とか、「ミッキーマウスが指を触れただけでただの水が極上のワインに変わった」とか、「死んだミッキーマウスがゾンビのようによみがえった(ゾンビはハリウッド映画の定番です)」というファンタジーを、まるで本当にあったことのように信じることです。

例えば「俺は今ゾンビを目撃した」とか「ミッキーマウスの姿をした宇宙人に拉致された」とか言う人物がいたら、「頭が◎◎しい」として、治療施設に閉じ込められるかもしれません・・・

ところが、「処女から生まれた」とか「湖の上を素足で歩いた」とかいう妄想を本気で信じる人間が、「神のみ心」などと言って魔女裁判で無実の人々をおぞましい拷問の後生きたまま焼き殺したり、十字略奪隊(軍)のような殺戮・残虐行為を繰り返すのが宗教の恐ろしいところです。

しかし宗教も、本気にせずにファンタジーとしてみれば大いに楽しめます。私もギリシャ神話や古代エジプトの神々の大ファンです。逆に狂信的な宗教の信者は、他の宗教を認めませんから多種多様な神話を楽しめません。

ミッキーマウスを神とあがめる信者は、プーさんを神とあがめる信者を皆殺しにしようとしますからね・・・

改めて「科学的・理性的」な心を持つことが、人生を楽しむうえで重要であると感じます。

現代では、投資やビジネスにおいても「自然科学」の原則に基づいた、理性的・合理的行動が求められますが、その基礎的知識や思考方法を学ぶための良書であると言えます。

<文責:大原浩>

 

 

 

 

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