ノーベル賞経済学者の大罪

ディアドラ・N・マクロスキー ちくま学芸文庫

私と財務省OBの有地浩が、「人間経済科学研究所」(https://j-kk.org/)を発足したのは今年(2018年)の4月である。「すでに終わった」マルクス経済学はともかく、その他既存の経済学も、やたら数式を振り回して「意味のないこと」を真剣に論じるのはばかげたことであると感じたのがその理由である。

アダム・スミスが国富論と道徳感情論(二つの本は一体のものとして企画された)で述べているように、<経済とは人間の営み>であり、人間性=徳とは切り離せないものである。

本書の著者も、間違った前提(意味の無い前提)を基にながながと論証する「ノーベル賞受賞経済学者」の大罪を暴いている。

著者が述べる「黒板経済学」がなぜこうもはびこるのか?それは、生殺与奪の権利を握った学生たち(単位で支配している)を前にして威張っている方が、実際の経済に触れて泥まみれになるよりも、学者たちによって心地よいからである。

米国の主要大学の学生を対象にした調査では、「現実の経済の知識を持つことは経済学にとって望ましい」と答えた割合はわずか3%であることが、問題の深刻さを示している。

<経済学者の予想は当たらない>ことはほぼ正確に予想できるが、著者は「経済学者が借金をして自分の予想にかけて大富豪になったことは無い」と論破している。

このような経済学者が、国民の血税や企業などの費用を浪費することはまさに大罪である。

また、「人間は利己的存在である」というアダム・スミスの言葉が世間ではねじ曲がって伝わっている。アダム・スミスは<勇気、節度、実用知(自己利益)、正義、愛>という五つの徳目体系と一体化した場合にのみ自己利益を肯定しているに過ぎない。人間が自己利益だけで生きているなどという考え方は、アダム・スミスの考えとは真っ向から対立する。

興味深いことは、<実験経済学において、「最も利己的」な行動を行うのは、経済学部の学生グループである>ことである。人間は利己的存在であると教授から洗脳されている学生が利己的行動(入学前は平均的な少年・少女であったはずである)をとるようになるのは恐ろしいことであり、大罪の一つでもある。

このような現状を見ると「人間経済科学」の研究は急を要すると実感する。

また、<数学専攻の学部生を経済学部の大学院に入学させるのをやめさせるべきである。歴史学、物理学、生物学の学生を増やすべきである>との著者の主張には大いに共感する。

経済学に必要なのは、数学では無く生物学、歴史学、物理学などの<観察から結論を導く帰納法>であり、根拠の不明な前提から始まる数学もどきの<演繹繹法>では無い。

その点、トヨタ生産方式の「現地現物」という手法は大いに示唆に富む。研究室や役員室で机上の空論を述べるだけでなく、工場などの生産現場や販売店に赴き理論の正しさを確認するからこそ、トヨタの判断は間違いが少ないのである。

経済学者がいままさに行うべきなのは大学版「現地現物」である。

 

(文責:大原浩)

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