ビッグデータと人工知能  可能性と罠を見極める

西垣 通中公新書

 

 

AI(人工知能)と言えば今大ブームで、近い将来ホワイトカラーの仕事の多くがAIにとって替わられるなどということが、まことしやかに語られます。

しかし、<人工知能>ではなく、<人造人間>はどうでしょうか?古くはフランケンシュタイン、漫画の世界ではキカイダーやキャシャーン(新造人間)などがありますが、怪しげなもの、あるいは夢物語と捉えるのが普通では無いでしょうか?

本書においても、加熱した人工知能ブームには批判的な立場ですが、そもそもAIはそんなに簡単に実現できるものなのでしょうか?

世間でAIと呼んでいるワトソンなどのコンピュータは、正確にはエキスパート・システムであり、人間の脳の機能のごく一部を機械的論理で拡張しただけにすぎません。ですから人間の脳全体を再現する人工知能の実現は、はるか遠い将来である考えるのが妥当だと思います。

現在のコンピュータシステムは<意味を持たない記号>としての情報(シャノン的)を基に論理的に計算することによって機能しています。ところが、人間の脳は全く違った仕組みで動いています。大脳新皮質の機能は、確かにコンピュータに似た部分があるのですが、旧皮質(辺縁系)や延髄などは、論理とは無縁の存在です。

人間の大脳(新皮質)こそが、知性の根幹だという考えはいまだに根強いのですが、最近の大脳生理学の研究においては、いわゆる古い脳が受け持つ感情(情動)こそが、人間の判断の基礎であることがわかってきています。

確かに、投資などで最終的な判断を行うのはあくまで感情(情動)であって、論理ではありません。論理はあくまで論理であって<価値観>を持たないので判断はできないのです。

例えば、人間を含むすべての生物の普遍的価値観は<生存する=生き残る>ことです。ですから、生き残る可能性が高い選択枝を選ぶという価値判断ができるわけです。それに対してコンピュータは人間によって作られた道具にすぎませんから<価値観>というものが無く、判断もできないのです。

更なる議論は、ぜひ本書をお読みいただきたのですが、現在のコンピュータ学の基本にあるのがユダヤ-キリスト教的一神教であるという筆者の見解はとても興味深いものです。

<文責:大原浩>

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