偶然の科学

ダンカン・ワッツ早川書房

著者が、YAHOOの主任研究員ということもあって、ネット上のデータ活用による「行動科学」研究についての話が多くを占めています。

IT・インターネットの発展というのは、社会や経済に大きなインパクトを与えたのと同時に、社会学や経済学を大いに発展させました。

社会学や経済学の研究では基本的に再現実験ができない(リーマンショックの研究をしたいからと言って、もう一度リーマンショックを起こすことはできない)ため、学者たちは直感や思い付きあるいは刷り込まれた「常識」で好き勝手なことを言っていたのですが、ネットの発達によって膨大な「人間の行動」に関するデータを手に入れることができるようになりました。

例えば本書で取り上げられている<ダウンロード・サイト実験>。数千人、数万人、数十万人単位の参加者を募ってデータを集めることなど、アナログ世界では莫大なコストがかかるほとんど「夢」であったのですが、ネット上では極めて低コストで実験が可能です・

そのような膨大なデータの分析によって、これまでの「常識」が単なる思い込みであったケースが明らかになってきました。しかし、それら莫大なデータの解析によっても、まだまだ人間の行動を分析し予想するのは、極めて困難であるというのが本書の結論です。

なお、ソニーのビデオデータ(ベータ)やミニディスクの失敗と、アップルの ipad やiphoneの成功を比較して、両社に戦略上の優劣は無かったと結論付けていますが、全く同感です。

アップルの成功は偶然であり、ソニーの失敗も偶然です。我々は、結果を知ってから過去を分析しますから、<成功する理由>や<失敗する理由>が最初からあったように思えるにすぎません。

<文責:大原浩>

 

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