名画で味わうギリシャ神話の世界

有地京子大修館書店

ダイナミックな愛憎の芸術を語る

有地京子氏は名画解説者であるが、「表意文字」ならぬ「表意絵画」の専門家でもある。例えばアルファベット26文字それぞれは単なる記号にしか過ぎないが、その多彩な組み合わせによって、驚くほど深い世界を創り上げる。

そのためには、記号であるアルファベットに深い意味を与える約束事(文法)だけでは無く、言葉の持つ意味の共通理解(コンセンサス)が必ず必要だ。

実は、多くの西洋絵画を鑑賞するためにも、文法やコンセンサスの理解が必要不可欠であり、そのバックボーンが無ければ、単なる無味感想なアルファベットの羅列にしか過ぎない。
今回は、堅苦しいキリスト教文化と対極にある「愛欲と憎しみ」にあふれたギリシャ神話がテーマだ。
 かつて存在した株式のヘラクレス市場、エロス(キューピッド)、美の女神ヴィーナスなど、日常にはギリシャの神々があふれているが、ギリシャ神話そのものの実像はほとんど知られていない。有地氏はその物語の約束事と深い背景を、数々の名画を取り上げながら、簡潔かつ要領よくまとめているが、決して堅苦しさは無い。

 むしろ、冒頭の「ギリシャ神話における世界の始まり」から、いきなり大地の女神ガイアと天空神ウラノスの息子であるクロノスの逸話で我々の度肝を抜く。クロノスは、ティタン神族という12の第一世代の神々の一柱だ。

 今で言えばDV夫であったウラノスに対して怒りを爆発させたガイアのもとに情愛を求めてやって来たとき、母の意を汲んでクロノスは、父親であるウラノスの男性生殖器を切り落として追い払ったのだ。

 また、西洋ではヴィーナスは、天上のヴィーナス(精神の愛)と地上のヴィーナス(肉体の愛)の2種類があるとされ、有名なボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」は前者を描いている。もっとも、本書を読み進んで行くと分かるように、多数の愛人を持っていた彼女の実像は後者に近い・・・

(文責:大原浩)

★本文は「英語教育」(大修館書店)
https://www.taishukan.co.jp/search/g7454.html
2020年5月号の記事を転載したものです・

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