神は妄想である 宗教との決別

リチャード・ドーキンス早川書房

 

 

数十年前にドーキンスの「利己的な遺伝子」を読んだ時の衝撃は今でも覚えています。私の人生観・社会観に大きな影響を与えたのは間違いありません。

本書は「宗教」という社会的にアンタッチャブル(宗教を批判すると「殺人も含めた」どのような恐ろしい仕返しをされるかわからない・・・)な問題に真正面から切り込んだ本であり、まずその勇気と見識を讃えます。

例えば、「UFOに乗ってやってきた宇宙人が自分を誘拐して実験した」と真剣に主張したり「自分は処女から生まれた」と触れ回る人々は、変人(多くの場合は精神異常者)と呼ばれるはずです。彼らに多くの人々がひれ伏して祈る姿を想像できるでしょうか?

ところが、現代社会にはびこり多大な特権(例えば日本では免税、宗教行為の自由など)を手にしている宗教集団では、キリスト教のように死人がゾンビのようによみがえって天に昇っていったなどという話を信じています(もし疑いを持てば信仰が揺らいでいるといわれます)

さらには、ローマ時代には処刑・拷問の道具であった十字架を胸にぶら下げます。現代で言えば電気椅子や首吊りロープをペンダントにしてぶら下げるようなものです。恐ろしいカルト集団としか言いようがありません。

<一人が、おかしなことを言えば、それは「精神異常」と呼ばれる。大勢がおかしなことを言えば、それは「宗教」と呼ばれる>という言葉は的を得ています。

しかし、なぜ人間は宗教というカルトに魅了されるのか?ドーキンスは、蛾がろうそくの火に自ら飛び込む現象との対比で説明します。蛾がそのような愚かな行為をするには理由があります。人類が環境を変化させるまでは、夜の明かりは月や星くらいのものでした。ですから、蛾は月や星の光を目印にし、その方向に飛んでいたのです。いくら飛んでも月や星に到達することはありませんから、問題はありません。

人類の登場という環境の変化が災難であったわけですが、それでも蛾とうそくが出会うのはごくまれですから、全体としては問題ありません。

人間も、例えば目上の人間の話を無条件に信じる傾向がありますが、これは人間社会が培ってきた伝統(知恵)を継承するうえで極めて重要な役割を果たしています。しかし、逆にこの傾向は、宗教というでたらめを子供たちが何の疑いもなく受け入れてしまう素地をつくっているのです。

ですから、ドーキンスは、何の判断能力も無い幼子や子供たちに「洗礼」などの形で宗教を強制する親たちも厳しく批判しています。

過去から現在に至るまでの戦争・テロの背景には、ほとんどの場合<宗教>がありますから、本書がその解決の一助になればと思います。

ちなみに、宗教の本質は「証拠ゼロで信じる」ことですから、そのような狂信者には本書は役に立ちませんが、少しでも進行に疑問を感じている方には、大いに参考になると思います。特に信仰に疑問を感じている方には、大いに参考になると思います。

<文責:大原浩>

 

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