脳はいかにして意識をつくるのか 脳の異常から心の謎に迫る

ゲオルク・ノルトフ白楊社

「心」は目で見ることができませんが、本当のところ存在するのでしょうか?それは「神は存在するのか?」というのと同じくらい議論を呼ぶテーマです。

本書では基本的に「心は存在しない」という立場をとっていますが、それでは今この文章を書いている私や、その文章を読んでいる読者は「何」によって内容を考え・理解したり、感じたりするのでしょうか?それが「意識」であり、意識の根幹にあるのが「自己(認識)」であるというのが本書の主張するところです。

自分を自分自身であると認識する「自己認識」は、高度な脳の活動の一つで、大脳が発達していない(特に空間認識能力が無い)下等生物には無い能力とされています。「自己認識」は、例えば狩りをするときに自分が平原のどこにいるのかを客観的に把握(つまり空から見下ろして自分がどこにいるのかを想像することができる)し、獲物との位置関係を理解する能力です。それが、他人(外側)から、自分を見つめて自分であると認識する能力へと進化したと言われています。

本書では、この「自己認識」が「安静時の脳活動」と深くかかわっていると述べられています。外側から何の刺激を受けなくても、安静時の脳は活発に活動することがあり、その脳内で完結する活動が<自己>に強くかかわっているというわけです。

しかし、安静時であっても、心臓の鼓動や血流をはじめとする身体の機能は止まることなく(止まったら大変です・・・)、その活動を支える指令とフィードバックの循環は常に行われています。つまり、安静時の脳活動が<自己>と関わっているのであれば、身体が<自己>と深いかかわりを持つ蓋然性も高まります。

<人工知能>が騒がれて、進化した人工知能は「2001年宇宙の旅」のHALのような<自己=意識>を持つのではないかということが言われていますが、私は現在のような<脳>だけをモデルにしたコンピュータの延長線上ではありえないと思います。

なぜなら意識とは人間の<生存本能>が原点であり、生存には体のあらゆる器官=身体が必要だからです。意識とは脳だけが生み出しているのではなく、身体と脳の連携によって生み出されているものであるからです。本書の指し示す内容も同じ方向を向いています。

なお、本書ではまだ研究途上の最新の理論が数多く取り上げられていますが、実証されていないものについては<可能性がある>というようなあいまいな表現になっているので、すっきりしない感じもあります。今後の研究の進展に期待したいところです。

また、著者が哲学者でもあるため、科学書というよりは哲学書としての色彩も濃くなっています。さらに、科学の専門用語も容赦なく出てくるので、かなり気合を入れないと読破できない本だと思います。

<文責:大原浩>

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