運は数学に任せなさい 確率・統計に学ぶ処世術
ジェフリー・S・ローゼンタール早川書房
「確率」の理論の多くは、人間の直感に反するものです。例えば、多くの数学者でさえ、その直感に騙され、理論を提唱した学者を感情的に猛攻撃した事例に次のようなものがあります。
A,B,Cの三つの箱があり、どれかに金貨が入っていて、もしその箱を当てたら金貨をもらえるとします。あなたが例えばAの箱を選んだとします。Cの箱が開けられそこには何も無いことが示されます。すると、金貨はA,Bのどちらかに入っていることになるのですが、ここであなたは改めて、AまたはBのどちらかを選ぶチャンスを与えられます。どうすべきでしょうか?
直感的には、Aの箱もBの箱も金貨が入っている確率は50%ずつのように思えますが全く違います。Bの箱に金貨が入っている確率はAの箱の2倍ですからBの箱を選ぶべきなのです(詳しくはぜひ本書を読んでみてください)。
人間の脳の直感というものは、人間(動物)がライオンなどの捕食者に襲われたり、山火事の火の手が迫ってきたときに、素早く危険を回避するために発達したものです。ですから正確性よりも、素早くリアクションすることに重点が置かれているのは当然です。ライオンが目の前で自分を狙っているのに、座り込んで「正しい」脱出方法に思いを巡らせるわけにはいきません。
バフェットが投資家・経営者として成功した要因の一つに、投資において直感という本能に従わず、「確率」という考えを大事にしたことがあげられます。実際、バフェット率いるバークシャーの極めて重要な事業の一つに(損害)保険があり、本書でも解説されているように、保険はまさに「確率」が中心になったビジネスなのです。
本書には方程式が全くと言ってよいほど登場せず、非常に読みやすい内容になっています。
ただ、ミニ小説やエピソードはそれなりに面白いのですが、ちょっと分量が多すぎて(著者が内容をわかりやすくしようと努力したのだともいますが・・・)やや、蛇足感があります。
<文責:大原浩>
参考書籍等紹介
ドイツの(失敗に)学べ!
ドイツの(失敗に)学べ! 川口マーン恵美 WAC 世界で「人権・環境全体主義」が猛威を振るっている。要するに、人権や環境を錦の御旗に、独善的なイデオロギーと強圧的な政治で、国民の自由な活動を抑圧しようとする勢力で .....
『アトムの心臓「ディア・ファミリー」23年間の記録』、映画ディア・ファミリー原作
清武英利著、文春文庫 事実を基にした「ノンフィクション」である。 語り口は淡々としている。取り立てて激しい感情表現があるわけでは無い。 だが、登場人物たちの心の奥底から湧き上がってくる感情が、圧倒的な力で迫っ .....
「黄金の馬」 パナマ地峡鉄道 ー大西洋と太平洋を結んだ男たちの物語ー
ファン=ダヴィ・モルガン著、中川 普訳、三冬社 本作品は、子供の頃夢中になって読んだロバート・L. スティーヴンソンの「宝島」を思い起こさせるところがある。子供向けの簡略版であっ .....
確率とデタラメの世界 偶然の数学はどのように進化したか
デボラ・J・ベネット白揚社
「杞憂」という言葉があります。 中国古代の杞の人が天が崩れ落ちてきはしないかと心配したという、「列子」天瑞の故事から生まれました。心配する必要のないことをあれこれ心配することを意味しますが、「天が崩れ落ちてくる確率」 .....