明日を追う<私の履歴書>
宮内義彦日本経済新聞社
オリックスの創業メンバーで、30年以上にわたって社長・会長として同社を牽引してきた宮内氏の回顧録と、ブログで執筆したオピ二オンをまとめた2部構成の本です。
オリックスは、非常に優れた会社ですが、その強みは「加点主義」と「自分で汗をかく」基本精神にあるのではないかと思います。
日本に限らず金融機関は減点主義が主流ですが、それに反し、あえて失敗を不問にしチャレンジ精神を大事にすることで同社が大きく成長しました。ドラッカーも「仕事を成し遂げるのは人間の長所であり、決して短所では無い」、「部下の欠点しか見つけられないマネージャーは即刻その任を解くべきである」と述べ、「加点主義」を重要視しています。
実際、ドラッカーがビジネスの基本として重要視する「マーケティング」と「イノベーション」のうち、少なくとも「イノベーション」は減点主義では実現できません。
また、宮内氏自身がMBAホルダーにも関わらず、ビジネスにおける現場の重要性を十分理解しており、回収不能となった融資先の事業を自らが運営し、ノウハウを積み重ねることによって多方面でのビジネス展開を可能にしました。
さらに同氏は、政府などの規制に対して真正面から闘った闘志としても知られます。穏やかな人柄ですが、内側に秘める情熱は熱いことを感じさせます。ただ、日本における既得権益の壁は厚く、思うような改革ができなかったことも、正直に述懐しています。
宮内氏が闘った、既得権益を死守しようとする、政治家、官僚・役人、教授会、ゾンビ企業の経営者を観ると、左翼や反日なども含めた日本の利権の闇と闘っている安倍首相を思いおこします。現在の既得権益の際たるものは、地上波テレビや新聞などですが、もり・かけ問題をはじめとする、そのえげつないこじつけによる個人攻撃と同様の仕打ちは、既得権益と闘う宮内氏の身にも起こりました。
ただ、日本の既得権益が岩盤なのは事実なのですが、例えば明治維新や世界大戦における敗戦などのビッグ・イベントで瞬時に打ち壊され、一瞬で世の中の構造が変わるのも事実です。
ですから、日本の改革の歩みは、ゆっくりしているように見えて、長い期間を観察すれば、劇的な変化を続けているのです。
それが、日本が1300年も国を維持してきた秘訣です。つまり式年遷宮(いわゆる伊勢神宮の行事)のように20年ごとに打ち壊して、建て替えるという作業を繰り返すのです。
建て替えと建て替えの間は、何も変わらないように思えますが、建て替えのときに劇的に変化するのです。そのような<革新性>こそが、日本繁栄の秘訣です。
<文責:大原浩>
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