最新脳科学で読み解く「脳のしくみ」車のキーはなくすのに、なぜ車の運転は忘れないのか?

サンドラ・アーモット+サム・ワン 東洋経済新報社

「人間経済科学」において考察する「人間」の中心が「脳」にあることは否定できません。したがって「脳科学」は「人間経済科学」を構成する主たる要素の一つです。

特に本書は、生科学的な脳の機能の解説だけではなく、脳と人間の行動との関係性に重点を置いた話が中心であるため、「人間経済科学」の観点からも貴重な内容にあふれています。

「行動経済学」でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンと相棒のエイモス・トヴェルスキーの研究に触れた部分もあります。

興味深いのは、映画からの引用が多いこと。「レナードの朝」、「レインマン」、「アルジャーノンに花束を」など脳機能に障害を持った主人公が登場する映画は山ほどありますし、なんらかの形の「記憶喪失」がテーマとなった映画は無数にあります。もし、これらのテーマを、映画で使用できないとしたら、映画産業が成り立たないかもしれません・・・

それだけではなく、行動経済学者で「予想通りに不合理」などの著者の、ダン・アリエリーも無類の映画好きで有名です。「脳=人間の心理・行動」を観察することと、映画を鑑賞するということには、何か共通の要素があるのでしょう。事実、映画には「人生(人間の行動)のすべて」が描かれていると言っても過言ではないですからね・・・

本書は、脳に関わる極めて興味深いテーマを、非常にわかりやすいタッチで 簡潔に述べています。見かけは一種のノウハウ本のようですが、内容はきちんとした最新脳科学の研究に基づいています。

例えば、「胎児にクラッシックを聞かせると良い」、「人間の脳のうち実際に使われているのはごくわずかで、残りはほとんど使われていない」、「アルコールを摂取すると脳細胞が破壊される」など、世間に根強く定着している誤った俗説がなぜ誤りなのかをきちんと論理的に説明しています。

念のため、脳に影響が無いのは「適度の」アルコール摂取であって、「大量のアルコール摂取」は脳に悪影響を与えますのでご注意下さい(適量とは、本書にも書かれていますが、夫婦二人で<適量には男女差がある>ワイン1本程度までです)。

コラムが多数あり、それぞれとても楽しい内容なのですが、例えば章の最後にまとめる等してもらった方が読みやすいかもしれません。

巻頭の<脳をどれくらい知っている>のクイズは是非やってみてください。世の中の<脳に関する通説>がどれほど間違っているかがよくわかります。

ちなみに、人間の脳が創り上げた「神」という妄想についても触れています。その中でも傑作なのが、米国の某アニメで「未来には宗教が無くなっている」という話。

しかし、宗教が無くなっても世界は「同じ<無神論の>教祖を信じる三つの派閥に分かれて争っている」というのです。まるで同じ神様を信じているのに血みどろの戦いをしている現在の三大一神教のようです(ユダヤ教・キリスト教ではヤハウェ、イスラムではアッラーと呼びますが、全く同じ神のことを指します)。

しかもその教祖が「宗教は妄想である」の著者で、無神論者として有名なリチャード・ドーキンス。これには、爆笑しました!

人間が「宗教という妄想」から脱出しても、「地球温暖化(教)」、「環境保護(教)」などの妄想にのめり込んでいるのは、結局人間にとって「現実」はあまりにも厳しくつらいので、「妄想」なしでは生きていけないということでしょう。

また逆に言えば、人間の脳は「厳しい現実から自らの自我を守る保護機能として「妄想」する能力」を備えているともいえるでしょう。

「人間経済科学」的観点から最も興味深いのが「ブランド」という妄想です。物理的には全く同じ商品なのに、商品の隅っこにブランドロゴが入っているだけで、何倍、何十倍もの代金を支払うのは「妄想効果」によるものです。

人々に「妄想を与え洗脳する宗教」がどれほど儲かるかは、「坊主丸儲け」という言葉が如実に示していますが、「ブランド戦略によって人々の妄想をかきたて」高額品を売るシステムは「ブランド丸儲け」という言葉で表現できるでしょう。

人間の脳機能を理解し十分活用することは、ビジネスにおいても極めて重要なことです。

 

<文責:大原浩>

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マット・リドレー翔泳社

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チャールズ・ダーウィン 光文社文庫

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