道徳感情論(第4部〜7部)

アダム・スミス日経BP社

本書を読了して感じたのは、あくまでアダム・スミスは、ギリシャのアリストテレスやエピクロス、ローマのキケロ等に連なる(道徳)哲学者であるということです。

彼は本書の中で、共感=(社会への)同調の重要性を説いています。日本的な表現で言えば「世間様」「お天道様」に恥じない行為こそが、各個人に求められるのだという主張を繰替えしているわけです。

自分の本能を適切にコントロールすることが、個々人の「徳」を高めるのに極めて重要であり、それができない本能が優勢な人間は、「下劣な下司野郎」だというわけです。

スミスの定義によれば、銀行・証券を含む金融機関のほとんどの人間は下劣な下司野郎ですし、金儲けに血眼になっている投資家の大半も同様です。

しかし、スミスが、利己心を他の多くの偽善的哲学者と違って否定はしていないのも事実です。「人間には血が通っていて、良いところも悪いところもある」というのが、スミスの主張の根底にあります。

ピーター・ドラッカーは非常に優れた観察者で、その優れた観察眼で、コンサルタントとして実際の企業の仕事の現場を詳細に観察しました。そして「マネジメント」をはじめとする多くの分野で素晴らしい経営理論を生み出しました。

本書においても、スミスの的確な(内面も含めた)人間観察の鋭さと、その複雑な心理の確かな体系化には驚かされます。しかも、机上の空論を論じるのではなく、目の前にいる人間の心の動きをしっかりと捉えることによってその行動原理を解き明かします。

「国富論」におけるスミスの「利己心」に関する記述も、この根本的理解が無ければ全く理解ができないはずであり、それを怠ってさもわかったような顔をしている経済学者はもちろん偽物です。

そもそも、本書の冒頭は「人間というものをどれほど利己的とみなすとしても、なおその生まれ持った性質の中には他の人のことを心にかけずにはいられないなんらかの働きがあり・・・」という一文から始まっています。

<利己心の塊=金で動く>人間が経済(市場)を動かすなどという妄想を抱くのは、その理論を構築する経済学者たちが、まさにそのように公徳心の無い<下劣な利己的野郎>だからではないかと思います。

もちろん、私自身も下劣な利己的野郎である、銀行員・証券マンや投資家を見てきましたが、彼らが必ずしも成功していないというのも事実です。

特に投資において、利己的野郎の成功確率は極めて低いのが現実です。私は「投資のアドバイスをお願いします」といわれると「まず禅寺で修行してきてください」と答えます。

自分自身の心(利己心)をきちんと制御できない投資家が成功するはずがありません。もちろん、投資をするということそのものが利己心に基づいているわけですが、その利己心を抑え理性で判断するべきなのです。そうしなければ、他人や市場ではなく、自分の欲望によって地獄に突き落とされます。

ところが、ほとんどの投資家は本能のままに投資を行い、いつも損をしています。

バフェットが、世界一の投資家として成功できたのは、投資(企業分析)の技術もさることながら、自分の欲望をコントロールできる強力な自制心があったからです。

<文責:大原浩>

 

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