倒れ行く巨像 IBMはなぜ凋落したのか

ロバート・クリンジリー祥伝社

 

ウォーレン・バフェットが保有するIBMの株式の3割を売却したと報道されてから、IBM関連の資料を色々と読み直しています。本書でも触れられているように、市場でのIBMへの信頼は「ウォーレン・バフェットが大量に保有している」という点に大きく依存していたからです。とりあえず、まだ7割を保有しているとはいえ、市場の信認は大きく揺らぎました。

IBMはワトソンシニアが経営を始めて以来、広告宣伝には非常にたけた会社であり、そのイメージ戦略は大変優れています。その広告宣伝の能力によって非常に高いブランドイメージを維持しているのも、IBMの会社価値の一つだと言ってよいでしょうし、私やバフェットがIBMに興味を持つ理由でもあります。

その中で、本書は、数少ないIBM」に対してネガティブな本です。企業を批判する本は、「私怨」にもとづいたり、「大企業はすべて悪だ」的な偏見だらけのものが多いのですが、本書は、非常に客観的かつ冷静な分析の上で執筆されています。むしろ冒頭のエピソードをはじめとして、IBMに対する「愛」さえ感じます。

その点で、本書は私のIBMに対する見方を変えました。過去から気になっていた問題点が、私の認識よりもかなり深刻であるということを痛感したというわけです。

まず、「終身雇用」を廃止した件。IBMの底力の源泉の多くは「会社への忠誠心」にあったわけですが、それが崩れ去ってしまいました。ガースナ―改革でのリストラは、緊急事態のため仕方が無かったのですが、絶え間ないリストラというのは会社を疲弊させます。少なくとも、IBMの遺伝子はそのようなマネジメントでは生かせません。

また、大いに期待されている「サービス部門」がなかなか伸びない理由もはっきりわかった気がします。スルガ銀行との裁判では「IBMはどうしちゃったの?」と思っていたのですが、特殊な事例ではなく、本書で描かれているように会社全体に蔓延しているのであれば由々しき事態です。

<文責:大原浩>

 

 

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