単身急増社会の希望

藤森克彦日本経済新聞社

 

タイトルに「希望」とあるように、テーマは主に高齢化・未婚化による<単身者急増社会>についてです。

少子高齢化全般については、過去「産業新潮」などのレポートでも執筆したように、世間が心配するほどの問題は発生しないし、むしろ「若年失業率の緩和」などのプラスの側面もあると考えています。また、近年増加している「知識労働者」であれば、75歳以降も十分働けます。バフェットは87歳になろうとしている今も、世界最高の現役投資家です。

ただ、<単身者の増加>は私も懸念しています。特に問題なのは、単身者には家族というセーフティーネットが効きにくいため、本書にもあるように貧富の差が激しくなります。困窮した単身者をすべて生活保護でこれからも(財政的に)救済できるのか?ということです。また、裕福な単身者の場合にも認知症などで財産管理が難しくなったときにどのような対応をするのかという課題があります。

例えば本書によれば、成年後見人の不正は、2014年に831件(被害総額56.7億円)、2015年521件(被害総額29.7億円)で弁護士や司法書士など専門職の不正もかなりあります。

別にだからと言って大家族主義を復活させろというわけではありませんが、単身で生きていくためには、普通以上の準備を長期間にわたって行わなければならないということです。

ちなみに2012年にはじまった「後見制度支援信託」は、急速に広がっているようですが、成年後見人制度の不備を補う、良い仕組みだと思います。

もうひとつの中年の単身者増加問題は、非正規雇用の増加によってもたらされた経済的困窮が原因です。

日本の非正規雇用は、もともと学生アルバイトや主婦のパートがベースになっているので、その収入で家族を養うという発想がありません。しかし、結婚適齢期の多くの人々が非正規雇用です。この問題は、早期に解決すべきでしょう。

同一労働・同一賃金が一つの解決法ですが、そのためには非正規雇用者の労働の専門性を明確に定めると同時に、いわゆる正社員の仕事の専門性も明確にする必要があります。しかし、辞令一つで全国に転勤する正社員の仕事の専門性を明確にするのが難しいのは事実です。

<文責:大原浩>

 

 

 

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