愛と怒りの行動経済学 賢い人は感情で決める

エヤㇽ・ヴィンタ―早川書房

 

「金で動く人間」=<合理的経済人>をモデルに構築する既存の経済学は、もう終わった(もともと役に立たなかった)と言えますが、いまだに各国政府の経済政策は、そのような役に立たない経済学の理論に基づいて構築されているので、何をやってもうまくいかないというわけです。

もっとも、多くの政治家や学者は「金で動く人間」なので、自分たちを反映した「経済的合理人」にこだわってしまうのかもしれません・・・

ここ数十年の行動科学の発展ぶりは驚異的ですが、ラボやインターネット上の実験に基づいて獲得したデータを基に「人間心理」を描いたのが本書です。

著者(や近しい家族)の個人的エピソードや心理のあやに関する記述がたくさん出てきます。

正直うっとおしいと感じる部分が無きにしも非ずです。しかし、「感情」というものが極めて個人的な体験であり、本人以外は「共感」という形で、推測するしかないことを考えれば、著者や親族の感情体験を率直に述べた部分は貴重な研究資料かもしれません。

行動経済学の本には「金融市場・投資市場」の話が良く出てきますが、「命の次に大事なお金」を扱う市場では、人間心理が極端な形で出てきますから良い研究材料なのでしょう。

M&A(企業買収価格)が、適正な価格よりも高い値段で決まってしまう理由を、オークションを例に挙げて説明しています。簡単に言えば、<参加者の入札価格の平均が適正価格に近い>ので、<セリ落とそうとすれば、適正価格よりも高い値段を提示しなければならない>ということです。

敵対的M&Aで競争相手などが出現したら、買収価格はうなぎのぼりとなって高値づかみをします。ほとんどの企業買収が失敗する理由の一つがこれです。

「投資の神様」のウォーレン・バフェットが、敵対的買収を決して行わず、先方から「売りたい」と言ってくるまで辛抱強く待つのは「行動経済学」の基本を踏まえた極めて合理的行動なのです。

<文責:大原浩>

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