毒と薬 大人のための図鑑

鈴木勉 監修新星出版社

 

米国のあるテレビドラマ(確か「メンタリスト」だったような・・・)で「歯磨き粉をチューブ2本飲ませて殺す」という話がありました。その話の中では、致死量はチューブ一本ですが、念のため2本飲ませたという設定です。ただ、実際にやってみれば(よいこのみんなは絶対真似しないように!)わかるように、歯磨き粉を飲もうとしても「おぇっ」となって吐き出してしまうので、泥酔させた上に睡眠薬(麻酔薬)まで服用させたうえに、手足をベッドに縛り付けるという念のいれようです(ちなみに、実のところはそれは殺人ではなく濡れ衣を着せるための巧妙に仕組まれた自殺だったのですが・・・)。

本書によれば、水の致死量は10リットル〜20リットル、砂糖の致死量は約1キログラム、塩の場合は32.5グラムから325グラム(いずれも標準的体重の成人男性の場合)。

水や砂糖を無理やり飲まして誰かを殺すのは難しそうですが、塩はもしかしたら可能かもしれません。そのうち「塩殺人事件」などというミステリーが登場するかもしれません・・・

要は絶対的な毒や薬というのは存在しなくて、ほとんどの場合その摂取する量によって毒にも薬にもなるということです。

そもそも、ペニシリンなどの抗生物質はカビ毒から生まれたものです。細菌が他の細菌をやっつけるための毒を、人間がうまく利用して薬にしたわけです。

また、医療用の薬を購入するときに医師の処方箋が必要なのも、それが(分量によっては)毒だからです。

本書ではその毒と薬の関係が、図解入りで非常にわかりやすく説明されています。

実用的かどうかはわかりませんが(殺人の計画でもない限り)、知的好奇心は大いに満足させてくれる本だと思います。

<文責:大原浩>

 

参考書籍等紹介

確率とデタラメの世界 偶然の数学はどのように進化したか

デボラ・J・ベネット白揚社

 「杞憂」という言葉があります。  中国古代の杞の人が天が崩れ落ちてきはしないかと心配したという、「列子」天瑞の故事から生まれました。心配する必要のないことをあれこれ心配することを意味しますが、「天が崩れ落ちてくる確率」 .....

たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する

レナード・ムロディナウ ダイヤモンド社

 「偶然」にまつわるエピソードを、世の中の幅広い範囲にわたって歴史的に深く洞察した良書です。特に歴史的なエピソードには興味深いものが多く、カルダーノの半生は注目されます。  そもそも、「確率論」や「統計学」は、古代ギリシ .....

『アメリカ経済 成長の終焉(上・下)』

『アメリカ経済 成長の終焉(上・下)』 ロバート・J・ゴードン著,高遠裕子・山岡由美訳 ロバート・ゴードン教授(米国ノースウェスタン大学)といえば、米国のマクロ経済学者であり、生産性問題研究の大家である。本著は、ゴードン .....

名画で味わうギリシャ神話の世界

有地京子大修館書店

ダイナミックな愛憎の芸術を語る 有地京子氏は名画解説者であるが、「表意文字」ならぬ「表意絵画」の専門家でもある。例えばアルファベット26文字それぞれは単なる記号にしか過ぎないが、その多彩な組み合わせによって、驚くほど深い .....