物流ビジネス最前線 ネット通販、宅配便、ラストマイルの攻防

斎藤実光文社新書

物流業界の現状をわかりやすくコンパクトにまとめています。また、米国の流通(宅配)業界と対比した内容も非常に良いと思います。

チャイナの宅配サービスが低レベルであることは予想できましたが、米国の宅配便サービスもかなり雑です。ただ、荷物の破損や汚れがあっても、賠償すればよい(その方が流通を丁寧に行うよりもコストが安い)との米国企業の考えや、それを米国の消費者が受け入れている結果だと思います。

おもてなしの国日本では(官業系は別にして)、そのような不誠実なビジネスは消費者に許容されませんから、世界に誇る高レベルのサービスは、日本の意識の高い消費者が生み出しているといえるかもしれません。

ただ、そのサービスの負担(コスト)を、ヤマトをはじめとする流通企業が吸収できなくなってきているのも事実です。国土の広い米国には航空便の宅配と陸送の宅配があるのですが、一般的に使われる航空便の宅配でも3日程度かかる地域が珍しくないようです。陸送の宅配では7営業日(土・日を挟むともっとかかる)かかる場合もありますから、昔の日本の郵便小包や国鉄(JR)小荷物よりひどいかもしれません・・・

しかも、UPSやFEDEXなどの主要企業は毎年継続的に料金を引き上げています。利用者として、値上げは決してうれしくありませんが、必要なコストを負担する必要はあると思います。ただ、当日配達の必要性を感じることは滅多にありませんから、料金を安くして1週間後の配達を選択するというようなオプションがあってもよいと思います。もっとも、配送が遅くなれば荷物が滞留し保管コストが増加しますから、地価の関係で保管料が高い日本では、別のオプションを考えなければならないかもしれません。

買い物難民にとってありがたいネットスーパーも、だれがどのようにその流通コストを負担していくのかが発展の鍵だと思います。

<文責:大原浩>

 

 

参考書籍等紹介

確率とデタラメの世界 偶然の数学はどのように進化したか

デボラ・J・ベネット白揚社

 「杞憂」という言葉があります。  中国古代の杞の人が天が崩れ落ちてきはしないかと心配したという、「列子」天瑞の故事から生まれました。心配する必要のないことをあれこれ心配することを意味しますが、「天が崩れ落ちてくる確率」 .....

たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する

レナード・ムロディナウ ダイヤモンド社

 「偶然」にまつわるエピソードを、世の中の幅広い範囲にわたって歴史的に深く洞察した良書です。特に歴史的なエピソードには興味深いものが多く、カルダーノの半生は注目されます。  そもそも、「確率論」や「統計学」は、古代ギリシ .....

『アメリカ経済 成長の終焉(上・下)』

『アメリカ経済 成長の終焉(上・下)』 ロバート・J・ゴードン著,高遠裕子・山岡由美訳 ロバート・ゴードン教授(米国ノースウェスタン大学)といえば、米国のマクロ経済学者であり、生産性問題研究の大家である。本著は、ゴードン .....

名画で味わうギリシャ神話の世界

有地京子大修館書店

ダイナミックな愛憎の芸術を語る 有地京子氏は名画解説者であるが、「表意文字」ならぬ「表意絵画」の専門家でもある。例えばアルファベット26文字それぞれは単なる記号にしか過ぎないが、その多彩な組み合わせによって、驚くほど深い .....