繁栄 明日を切り拓くための人類10万年史(上)

マット・リドレー 早川書房

人類10万年の歴史を「交換」の観点から論じた本です。

本書によれば、人間以外の動物が物々交換するのはとても珍しいことです。例えば、家族の間での分かち合いや、食べ物と交換の交尾(売春)は昆虫も含めた多くの生物で見られます。ところが、「交換」はほとんど人間だけの特徴です。例えば犬同士がお互いに持っている骨を交換するのを見たという人はいないはずです。

また、類人猿の間では「互恵的交換」(私があなたのノミをとったら、あなたも私のノミをとってくれる)が見られますが、人間が行う交換は例えば魚と山菜というように、全く異なるものの価値の均衡点を見出して行うところに特徴があります。

長年、「人間とサルの違いはどこにあるのか?」という問いは、私の頭を悩ませてきました。チンパンジーとヒトの遺伝子はほとんど同じですし、数百程度の単語なら使いこなせます。また、道具も自分で発明します。しかし、「交換」が人間特有の行為であるということは、非常に納得できます。

また、本書のとても鋭い指摘は「交換」が有性生殖と同じ効果をもたらすということです。例えば単純に数を増やすだけであれば、アメーバのように自己分裂をする方が効率的です。

多くの進化した生物が、大変な手間と労力をかけて有性生殖を行うのは、異なった遺伝子を混ぜ合わせることにより、多様性が生まれ突然変異によるイノベーションも期待できるからです。

古代の村や町では、閉ざされた集団の中だけで「交換」が行われてきたため、有性生殖によるイノベーションも遅々たるスピードでした。ところが、鉄道、自動車、航空機によって一挙に人間の行動範囲が広がり、さらにインターネットにより「交換」の範囲は世界中に及びます。

つまり、70億人が物や情報の交換を行う「フリーセックス」の(誰とでも有性生殖を行う)時代がやってきたのです。

有史以来「人類滅亡説」は人気がありますが、これまでそれが一度も当たったことはありません。なぜなら、人類は「交換」のメリットを最大限に享受してきたからです。そして、「交換」のスピードは加速し範囲もまだまだ拡大しています。

人類の未来が明るく無いはずはありません。

 

<文責:大原浩>

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