トルコ仲介の期待と戦争を終わらせたくない英米の迷走
ニューズウィークといえば、リベラルで米国では民主党、日本でも反自民色の強い記事が多いが多いのだが、このところ、ウクライナ紛争については、少し中立的な記事が目立つ。
これ以上戦っても互いに得るものはないと当事国が気づいたというのに、バイデン政権は戦争犯罪の認定や「体制転換」などの夢を見るばかりで、停戦を仲介する資格さえ失った。
と言うウィリアム・アーキン(元米陸軍情報分析官)の記事が掲載されていた。
さらに要約すれば、
「電撃作戦は頓挫し、ロシア軍は疲弊しきっている。ロシア政府も早急に停戦協議をまとめて消耗戦を終わらせようというウクライナの提案をまともに検討せざるを得ない」
「ウクライナ戦争はもう終わりだと、米国防総省の匿名の高官は語るが、ブリンケン米国務省高官は交渉の進展を認めない」
「ウクライナはアメリカの支援なしにロシアとの交渉を進めている」
「プーチンの立場は弱くなっており、ロシア経済は大きな打撃を受けている。全ては一変し、決して元通りになることはないだろう。だが現在進行中の戦争の終結に関して言えば、プーチンは(ウクライナのNATO加盟阻止やクリミアの保持で)勝利を宣言することができるのと同様に、ゼレンスキーもロシア軍を撃退し、独立国家としての揺るぎない自覚を確立し、大国に立ち向かう小国の手本を示したのだから。勝利宣言できる」
と言ったことが書いてある。
聖ソフィア寺院をモスクにしたトルコ大統領が時の氏神という皮肉
現在、和平交渉の主役は、トルコのエルドアン大統領だということに感慨を感じざるを得ない。
コンスタンチヌス帝が創建し、ユスティニアヌス帝が現在の建物を建築した、アヤソフィア(聖ソフィア寺院)は、ビザンツ時代はギリシャ正教の総本山で、オスマン時代はモスクで、その後は博物館になっていた。
それを、再びモスクにして、キリスト教世界に大きな衝撃を与えたのがエルドアン大統領だ。また、フランスなどと第1次世界大戦中のアルメニア人虐殺について、ジェノサイドかどうかで対立しているのもトルコで、フランスではそれを否定すると刑事罰だがトルコでは逆だ。
にもかかわらず、ギリシャ正教世界の最大の国家たるロシアと二位のウクライナの仲介者として両方が一定の信頼を与えているのがエルドアンなのだ。フランスのマクロン大統領など本来なら仲介に乗り出せる能力があったはずなのに。ウクライナ一辺倒なので資格を失い、エルドアンに要望を出すことくらいしか出来ない。
日本もやる気があれば、立場としては資格有りなのに、ロシア憎しで感情的になって、なにも平和に貢献しようとしない(制裁に反対しているのではない。欧米との同盟のために付き合えばいいが、歴史観などには独自の立場をとり、仲裁に乗り出すべきだと主張している)。
ともかく、ロシア帝国=ソ連=ウクライナ+ロシアその他であって、ロシア帝国=ソ連=ロシアでないといっても、屁理屈並べて否定するどうしようもない人が多い。それなら、大日本帝国のしたことに韓国の人も責任を問われるのかとかいうが、フルシチョフは幼少期にウクライナに移住、ブレジネフはウクライナ生まれで、いずれもロシア系ウクライナ人であり、ソ連統治下で有力者の地元としても、ウクライナは優遇され発展したといっても、嘘だと言い張るのだから始末が悪い。
アメリカ抜きで交渉した結果、相当な進展があったようである。ロシアの交渉団を率いるメジンスキー大統領補佐官は交渉を終えた後、ウクライナが「十分に練り上げた明確なプラン」を提示したことに安堵したと語った。ウクライナ側の提案は「精査した上で、国の指導部に報告する」「彼らの提案に対する、われわれの提案も示すつもりだ」とメディアに語っている。
ゼレンスキーもNATO加盟は諦めてもいいといい、クリミアも15年間は現状を容認するとまでいっているのだから、両者の溝は狭い。
この交渉の進展が、英米はお気に召さないらしい。さっそく、ウクライナに対する軍事援助の強化を発表している。
プーチンの国内での立場が悪くなっていると英米メディアは報じているが、和平の決断をするという観点から言えば、プーチンの方がゼレンスキーより弱いはずない。ゼレンスキーは戦争を続けるなら支持されるだろうが、止めるといえばテロに会う危険性も高い。
ならば、英米のように軍事的支援を強化して、ゼレンスキーが和平の提案に国内的に乗りにくくするのが賢いはずがない。
英米は、プーチンの権力基盤を崩したら和平が出来るようなこと言うが、和平はプーチンの権力が安定していた方が早くできると見るのが普通だ。
逆はこの際に関しては、あり得ない。アメリカはウクライナを全土廃墟にしても戦争を続けさせて和平を妨害し、ロシアもウクライナも立ち直れないようにしたいのだろうか。
たしかに、どちらも旧ソ連の片割れでよく似たものだから喧嘩させて一緒に潰すという深慮遠謀ならある程度は理解できるが、ウクライナ人を救い出そうとするなら、馬鹿げている。
そこまで追い込んだら、ロシアが核兵器を使うリスクを高めることも間違いない。もちろん核を使えば、ロシアが悪いのは間違いないが、挑発した方の責任もないとはいえない。真珠湾攻撃は申し訳なかったし、よほどへそ曲がりでない限りは、誤りを認めるだろうが、太平洋戦争の開戦を避ける努力をアメリカも十分して欲しかったというのが日本人の気持ちであるはずだ。
悪党を挑発して犯罪を起こさせたところで、犯罪を起こした者しか罰せられないが、それが賢いわけではない。
★本レポートはアゴラ(https://agora-web.jp/)より転載いたしました。
★八幡 和郎
人間経済科学研究所フェロー、評論家、歴史作家、徳島文理大学教授、
滋賀県大津市出身。東京大学法学部を経て1975年通商産業省入省。入省後官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。通産省大臣官房法令審査委員、通商政策局北西アジア課長、官房情報管理課長などを歴任し、1997年退官。2004年より徳島文理大学大学院教授。著書に『歴代総理の通信簿』(PHP文庫)『地方維新vs.土着権力 〈47都道府県〉政治地図』(文春新書)『吉田松陰名言集 思えば得るあり学べば為すあり』(宝島SUGOI文庫)など多数。
新刊:『日本の総理大臣大全 伊藤博文から岸田文雄まで101代で学ぶ近現代』(プレジデント社)
「365日でわかる世界史」、「365日でわかる日本史」(いずれも清淡社)
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