他力でのキャリア形成論
バカ正直
外国為替市場では⼀時1ドル160円にまで達し34年ぶりの円安⽔準、その後⽶国の雇⽤統計を機に急速に円⾼に戻しました。
34年前は⾃⺠党が安定多数を確保しましたが、今年の衆院3補選では全敗、激変する変化に対応する技術が求められております。
ある⾦融機関の会合で、株式公開の話をすることになりました。かつては毎年数⼗回の講演をこなしたテーマなので、⾻⼦はすぐにできました。
「少し経験談を披露して欲しい」とのリクエストをいただき、ボ〜と考えていたら、妙な出来事を思い出しました。
私の株式公開の会社は既に廃業し、関係者には多⼤なご迷惑をおかけしました。当時の従業員と連絡を取ることもあまりないのですが、数年前に元従業員の⼀⼈からお誘いを頂いて、久々にお酒を交えて会⾷をすることになりました。
新卒で⼊社して下さった社員で、廃業のショックは誰よりも⼤きく、時間は経過しておりましたが、愚痴の⼀つも出るものと覚悟はしておりました。
「あの時は本当に迷惑をかけたね」と頭を下げたところ、「会社がよくこれだけ⽣き延びた、と先輩社員は驚いていました」と⾔われてしまいました。
私も⼈並みに、社員の⽣活や給料に、頭を痛める社⻑でした。
ただ彼は、「沼⽥社⻑はバカ正直で駆け引きができないし、お客様ともすぐ喧嘩になるので、この会社は⻑くは持たないだろう」と先輩社員が噂していたといいます。
当時の私は、確かに⼤抵は、戦う選択をしてきました。
その⾟さの記憶が、最近瞑想をしていると、フツフツとぶり返してきます。
⾃分の⼈⽣と⼤切な会社を賭けた勝負、周囲に弱みを⾒せられない中、当時は意識もしていなかった恐怖が、何⼗年も消化し切れずに残っていたのです。
「もう終わったんだよ、よく頑張ったね!」と⼼の中で当時の「⾃分」を慰め、対話を繰り返しながら、今、ゆっくりと気持ちの整理をしております。
苦しみと向き合うのか、その気持ちに蓋をするのか、価値観は⼈それぞれです。
蓋をしなければ戦えませんでしたし、⼼を閉じたままではエネルギーは澱みます。
どちらに転ぶにせよ、より良く⽣きるための処⽅箋なのです。
偶然が8割
「計画的偶発性理論」は、スタンフォード⼤学のジョン・D・クランボルツ教授らが1999年に提唱したキャリア論です。
「個⼈のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される」とのデータを踏まえ、「キャリアは戦略と努⼒で職歴を積み上げて形成する」という従来の考え⽅・常識を⼀新したのです。
従来が「⾃⼒でのキャリア形成論」だとすれば、最近の計画的偶発性理論は「他⼒でのキャリア形成論」とも⾔えるでしょう。
計画的偶発性理論は真⾔密教にも通じており、密教では宇宙全体を⼤⽇如来と捉えるので、「偶発性」とは「⼤⽇如来の説法」です。⼤⽇如来の説法に⽿を傾けるのは、密教⾏者として当然の話です。
ただ⼀⽅で、⼤⽇如来は「本当の⾃分」でもあると密教は説きます。「偶発性」と「本当の⾃分」、これが⼀体になるのが真⾔密教です。
偶発性をキャリア形成に活かすには、好奇⼼・持続性・楽観性・柔軟性・冒険⼼の5つの⾏動指針が必要だとクランボルツ教授は指摘します。
これはベンチャー経営者に必要なマインドセットと⼀致します。
⼀⽅で密教では、「偶発性」という⼤⽇如来の説法を、これもまた⼤⽇如来である「⾃分」で聞くべきだ、と説きます。
仏教の⾃⼒・他⼒とは違う概念ではありますが、「他⼒即⾃⼒」が真⾔密教の説く経営メソッドなのです。
成功の要因が偶発性だとすると、事業計画は無駄なのでしょうか?
2割の計画の意味
成功の80%は偶発性で説明できますが、事業計画の意味も20%程度はあります。
実際にベンチャー企業に投資をして、当初の計画通りに株式公開が実現するケースは
皆無なのですが、それでも私は、事業計画を丹念に読んでおります。
事業計画で私が⾒たいのは、事業計画から透けて⾒える経営者の「本⾳」です。
後から振り返れば、成功は偶発性でほぼ説明が付くようですが、偶発性を如何に選択するかで、成功の度合いや確率は変わってくると私は考えております。
「偶発性」という海を泳ぐには「⾃分」という地図が必要なのです。
たとえば私の場合、他⼈の事業にエッジを効かせ急成⻑を⽬指すのは⼤好きで、寝⾷を忘れて取り組めるのですが、⾃分のお⾦儲けには関⼼がありません。
株式公開コンサルティングは、あらゆる業種が対象ですが、私は業種の研究は後回しにして、まずは経営者からコンサルティングをスタートします。
最初は収益性もコンプライアンスも無視して、会社を社⻑専⽤のゲームセンターに改造する⽅法を考え続けます。
時に滅茶苦茶な提案にもなりますが、⼀⾒ノリノリの経営者でも責任は⾃覚しており、私の⼝⾞に乗って誤った判断をするケースはまずありません。
「お⾦にならなくてもやりたい事」、要するに社⻑のワクワクが複数⾒つかれば、コンサルティングの半分は成功しています。
ただ上場レベルのワクワクは、私の能⼒で⾒つけるには、最低1年は必要です。
100%ワクワクだらけの事業計画は不⾃然ですが、お⾦だけの事業計画は、⽬算が狂えばチームが空中分解し、優秀なメンバーは⼤⼿に引き抜かれてしまいます。
事業計画に記載される経営理念は、⼤抵は「⾦儲けの隠れ蓑」に過ぎないので、本⾳のワクワクを探り出すためにはヒアリングとディスカッションが重要なのです。
刺激的な「喧嘩」
私はよく「クライアントと喧嘩している!」と⾔われますが、私の⾒⽴てが成功して
いる限りは、経営者にとっても楽しく刺激的な議論になっているはずなのです。
私の意⾒の⼤半は不採⽤ですが、すぐに次の意⾒を求められるのはその証拠で、だからこそいつも、クライアントと喧嘩をしているように⾒られるのです。
「お⾦にならなくてもやりたい事」が⾒つかれば、あとはそこから積み上げます。
私の場合は、社⻑をワクワクさせながら成功に誘うスタイルなので、クライアントにお会いして未公開情報がたくさん取れないと、実は⼿も⾜も出ません。
そのため営業が得意なパートナーと組むと成功しやすく、また営業⼒のあるクライアントには、適切なワクワクを付加し、エッジの効いた事業計画が描けます。
融通無碍でドラスティックな事業転換が可能なベンチャー企業は得意ですが、形が定まっている上場企業には、私は役には⽴ちません。
お⾦にならなければ競争もないので、オンリーワンの構築がやりやすいのです。
業界知識の乏しい私が、実際の事業計画にまでに関与するケースは少ないのですが、⼤元になる考え⽅が浸透すると、⾃然に上場会社へと育っていきます。
営業の苦⼿な私にも、最近はお客様が先⽅から訪ねて来られますが、若い経営者からは「先⽣」扱いされてしまい、昨今は本⾳を聞き出しにくくなりました。これは「おじいさん」には相応しいモデルではないようです。
◎本レポートは、<宝瑞院副住職 沼田 榮昭のマニアックなメルマガ 05 【2024年5月】>を大原浩の責任で編集したものです。
★沼⽥ 榮昭(宝瑞院副住職)
楽天・サイバーエージェントなど有⼒企業の上場を⼿掛け、「伝説の株式公開請負⼈(⽇経新聞記事より)」と⾔われる。2000年〜2021年まで21年間、サイバーエージェントの社外役員を務める。リカバリーインターナショナル株式会社(東証グロース:9214)社外取締役。
宝瑞院(茨城県神栖市・浄⼟宗系単⽴寺院)副住職。中華⼈⺠共和国主治中医師(内科)、⼤阪⾳楽⼤学客員教授、情報経営イノベーション専⾨職⼤学客員教授、復旦⼤学(中国・上海)⽇本研究センター客員研究員。CIF認定TimeWaverセラピスト®。RYT200(Registry ID: 417550)、ディープマインドフルネス®ヨガ認定講師。
ファイブアイズ・ネットワークス株式会社
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