原油需給のパラダイム転換で大相場到来か

原油需給のパラダイム転換で大相場到来か

新型コロナウイルスの感染拡大を恐れた世界的な経済活動の縮小によって多くの資産価値が急落する中、原油相場も例に漏れず暴落を示しました。需要の減退に対する懸念に加えて、相場を下支えてきた協調減産体制の崩壊も市場をパニックに陥れています。一方、原油相場の新しい市場秩序が形成される可能性もうかがえます。

昨年初めから今年2月前半にかけて$50/bbl~$65/bblで推移してきた NYMEX WTI 原油先物は、総悲観によるパニックが始まった2月後半以降底割れの様相を示し$20/bblを割るに至りました。市場には$10/bbl割れや$5/bblまで下げるといった声も出ています。

直近の OPEC や国際エネルギー機関 (IEA) の月報によると、2020年の世界の石油需要見通しは先月までの予想に比べて日量100万バレル程度の下方修正となりました。今年の需要は1億100万バレル程度と推定されてきましたので修正幅は1%に過ぎませんが、その後の見直しで需要の低下は2桁になるという見解も示されています。

こうした需要の減退予想に対し、OPEC とロシアなど非加盟国は3月末に失効する協調減産の延期に失敗し、サウジアラビアやロシアはフル稼働による価格競争を始める公言しています。現在の OPEC+ による生産制限は2018年10月の生産水準から合わせて日量210万バレル削減するもので、4月以降は一転して増産に振れるため足下の状況から最大で日量400万バレルの供給増が見込まれています。

OPEC+ 協調減産の基準となった2018年10月の世界の総石油供給量は、米国エネルギー情報局 (EIA) の推定によると日量1億253万バレルでした。一方、今年2月の供給量は同1億26万バレルと推定されています。OPEC らの減産は同じ期間に日量200万バレルに上った米国の増産によってほぼ相殺されました。しかし、経済制裁を受けるイランやベネズエラと政情不安で供給が途絶したリビアという減産免除国の供給量が合わせて日量280万バレル減っているため、世界の石油需給バランスは均衡を維持してきたのです。来月以降この状況は一変し、歴史的な供給過剰が始まります。

OPEC の生産調整はかつて長い間全く遵守されずに形骸化し、2015年12月の総会では生産枠の設定自体が行われなくなりました。ところがその後の野放図な供給過剰による価格下落を受けて、2017年初めからロシアら非 OPEC も巻き込んだ協調減産が再開し、以降は高い遵守率を維持して相場を支えてきました。

とはいえ、減産合意の主要参加国で遵守率が高いのはサウジアラビアだけで、他の有力産油国であるイラクや UAE などは合意削減量をほとんど達成したことがありません。非 OPEC の協力国であるロシアの生産量も目に見えて削減されることはありませんでした。

今回のサウジの自暴自棄とも思える方針転換は多くの産油国にショックを与え、OPEC+ の減産を他所に一人生産を拡大して恩恵を享受してきた米国にも協調減産参加を検討する動きが見られます。減産に多大な労力を払ってきたサウジに対し好き放題に生産する米国が増産競争を止めろといって全く説得力はありませんが、米国も積極的な協調減産に加わると大きなパラダイム転換になるでしょう。

過去の需給バランスと価格の動向を見る限り、日量200万バレルを超える供給過剰が原油相場を$20~$30/bbl押し下げることは珍しくなく、同300万バレルを超えるような余剰が続けば極端な安値となっても不思議ではありません。

ただ、これまでのケースでは先に需給バランスの変化が傾向として定着し、遅れて価格がそれを反映し始めるのが常です。今回の急落は需給バランスの大きな変化に先立って発生しており、通常の需給相場とは言えません。むしろ、地政学リスクを囃した買いのような思惑に踊る展開です。

新型コロナウイルスの感染拡大が今後どの程度の規模でどれだけ長期にわたって続くのかが不透明ですから、経済活動の自粛がどれ程世界の経済成長を圧迫するのかもわかりません。そのため不安心理が市場を支配するのは自然な流れと言えます。

とはいえ、産業活動と石油需要は想像するほど相関性の高いものではありません。日米中の鉱工業生産指数の前年比の変化と原油処理量の変化を比較すると、過去10年の相関係数は0.41~0.48で強い相関は表れていません。直近5年に絞ると0.2~0.3に下がり、もうほとんど関係がありません。

実際に1~2月の中国の鉱工業生産指数は前年比13.5%減にも関わらず原油処理量の減少は3.8%に留まり、3月に入ってからの米国の原油処理量は前年比1.4%減で全米の石油製品の出荷量などは同0.5%増加しています。日本の3月前半の原油処理量は前年比8.3%減と比較的大きなマイナスとなっているものの、消費税増税の影響も含まれています。新型コロナウイルスの影響が本格化する前の2月の数字は同9%を超えるマイナスでした。

結論として、経済活動の縮小が世界の石油需要に与える影響は想像より小さいと考えられます。一方で2016年の相場下落が OPEC だけで行われていた協調減産にロシアなど非加盟国を巻き込んだように、今回の下げは米国を加えた生産調整体制を生む可能性があります。世界の新型コロナウイルス感染者数の拡大ペースが落ちるまでは今のパニックが収まることはないでしょうが、その後には金融緩和で供給された資金を吸収する大相場が来ると思われます。

*藤原 相禅 (ふじわら そうぜん)*

個人投資家

広島大学文学部卒業

日本大学大学院で経済学修士

地方新聞記者、中国・東南アジア市場での先物トレーダーを経て、米国系経済通信社で商品市況を担当。子育てのため一家でニュージーランドに移住。台湾出身の妻の実家が営む健康食品メーカーの経営に参画。

商品相場歴30年余。2010年から原油相場ブログ「油を売る日々 (https://ameblo.jp/sozen22/)」を運営。

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