新型コロナ・ショックはリーマン・ショックより手ごわい

新型コロナ・ショックはリーマン・ショックより手ごわい

日銀の黒田総裁は16日の記者会見で、現在の世界の状況はリーマン・ショックのような金融危機とは違うとの認識を示した。

3/16の定例記者会見に臨む黒田総裁(日銀サイトより)

たしかに新型コロナ・ショックはリーマン・ショックとは違う。しかしそれはリーマン・ショックよりダメージが軽いことを意味するものではない。感染の収束までどれくらいの月日を要するかによるが、新型コロナ・ショックはリーマン・ショックをはるかに超える深刻なものになると私は思っている。

リーマン・ショックの時は、2007年8月のBNPパリバ傘下のファンドの解約凍結、2008年3月のベア・スターンズ証券の消滅、同年9月のリーマン・ブラザーズの破綻と金融機関の破綻が続く中で、疑心暗鬼になった金融機関が一斉に資金を市場から引き揚げたために金融システムが崩壊の瀬戸際に立たされたのであって、金融の問題だった。もちろん、このショックウェーブは実体経済に波及して、失業の増加、消費の落ち込み、企業倒産などを引き起こし、GMもいわゆるチャプター11を申請することとなったが、ショックの震源地は金融市場だった。

これに対して、今回の新型コロナ・ショックの震源地は実体経済そのものだ。世界各国の入国制限や海外渡航制限などで世界の航空会社や旅行会社は息も絶え絶えとなっている。B737MAXの問題も抱えるボーイング社は、早速米政府に600億ドル(約6.6兆円)の支援を要請しているそうだ。

このほかにも、ホテル業界や外出制限で営業ができないレストランやカフェなど、新型コロナのために売り上げが極端に落ち込んでいる企業は数限りなく存在しており、そこで働く人々も収入の激減や失業に苦しんでいることから、今後消費が大幅に落ち込むことが心配だ。

リーマン・ショックの時は実体経済も落ち込んだものの、基本は金融危機だったので中央銀行が金融市場に潤沢に資金を流し込むことで、危機を収束に向かわせることが出来た。しかし、今回の新型コロナ・ショックの悪影響はすぐには収まりそうにない。iPS細胞の研究者の山中教授によれば、新型コロナとの戦いは「1年は続く可能性のある長いマラソン」だそうだが、もしそうであれば、新型コロナ・ショックはリーマン・ショックなどとは比べ物にならないくらい深刻な影響を世界経済にもたらすものとなることを覚悟する必要がある。

今回、主要国の中央銀行は、FRBもECBも日銀も、手の内にある限りの政策を次から次へ、これでもかと言わんばかりに繰り出して、市場に資金をジャブジャブ供給しつつある。

しかし、今回の危機の震源地は金融市場ではなく実体経済そのもののため、今のところ金融機関の間でリーマン・ブラザーズの時のように資金繰りに行き詰まっているところは見当たらない。

日銀は13日に金融機関に対して5000億円の資金供給オペレーションを行ったが、このオペに対する応札は5億円にとどまり、大幅な札割れとなった。これはつまり金融機関は流動性不足には陥っていないということだ。これに先立ち日銀は、3日と10日に米ドルを金融機関に供給するオペを実施したが、応札はゼロで、金融機関はドルの調達面でも当面は問題を抱えていないようだ。日銀は株式市場が急落する中で、市場心理を鎮静化させようとこうした施策を次々に打って見せているのだろう。

ただ、これで安心してしまってはいけない。実体経済の落ち込みが不良債権の増加という形になって、今度は金融市場に影響を及ぼす可能性がある。すでに石油セクターでは新型コロナ・ショックで需要の落ち込みが見込まれる中、サウジとロシアの減産調整の不調もあって原油価格が暴落しているが、その影響はアメリカのシェールオイル生産者の経営を直撃している。

この結果、エネルギー関連企業向け債権を多く組み込んだCLO(ローン担保証券)の債務不履行が今後続出する可能性があり、これを購入した金融機関の経営に大きな影響を及ぼすことが懸念される。

国内での運用に窮した日本の金融機関も、高利回りに魅かれてCLOを大量に購入しており、新型コロナ・ショックの影響がこれらの金融機関にどのように及んでくるのか目が離せない。

新型コロナ・ショックは、実体経済と金融市場の両方に大きなダメージを与える恐れがあり、リーマン・ショックよりも手ごわい。

(文責:有地浩)

★本レポートは、言論プラットフォーム「アゴラ」http://agora-web.jp/から転載させていただきました。

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