正学の勧め/公に生きる

正学の勧め/公に生きる

月刊「高野山」5月号(創刊一周年記念号)の特別インタビューで作家・夢枕獏氏は、「日本最古の長編小説といえば『かぐや姫』(竹取物語)というのが定説ですが、本当は空海の『三教指帰(さんごうしいき)』ですよね」と書いています。三教指帰は、儒教、道教、仏教という三つの教えを比較して、仏教が一番優れていると説いています。その中で空海は、「儒教も道教も、突き詰めれば自分自身の出世や安楽しか考えていない。が、仏教は違う。すべての人を助けて、みんなで彼岸に渡るんだ」と言っています。結局、自分のためなのか、みんなのためなのか、そこが違うという話です。

空海に反論するわけではありませんが、仏教も現代では、自分の修行が中心に見えます。私もそうかもしれません。それが悪いかもわかりません。江戸時代の書物を読むと、当時の官学である儒教から、かつての仏教すらも曲学との指摘がされたようです。「曲学阿世の徒」などと使われますが、曲学は「真をねじ曲げた学問」、阿世は「世間に媚(こ)び諂(へつら)う」という意味です。学問は天下国家のため、世の中を良くするために学ぶのであり、自分の安楽や出世、ましてやお金儲けが目的ではない、という考えが東洋にはありました。

上海に滞在していた頃は、中国人の拝金主義には随分驚かされました。ただ、学問はお金儲けの道具ではない、という感覚は、共産中国にも残っていました。情報商材や講座ビジネスが大流行の日本なら、中国富裕層向けに「お金のブロックを外す講座」を開講するのも良いかもしれません。繰り返しますが、これが悪い、とは思いません。その上で私は、それでも日本に正学を復興したい、そんなことを考えております。

私が修行したお寺では、毎日「空のように広い心と、海のように深い心と、ダイヤのような固い決意で、宇宙を照らす光のように、すべての人の利益のために修行する」と唱えました。あくまでも私の考えですが、真言密教は宇宙の道理を教えます。個人の幸せはその先の話です。仏教は一般に、個人の抜苦与楽を教え、その先に宇宙の道理を見ます。順番が異なります。

20年ぐらい前までは、個人の幸福追求が同時に、社会全体の発展にもつながると、牧歌的に信じられました。そうした自己中心教が蔓延し、猫も杓子も自己実現を目指しました。農業や訪問看護、地方創生等のビジネスに関わるにつれ、私は個人主義的な自己実現の追求は、時に社会の発展にはつながりにくい、と考えるようになりました。

ベストセラー「人新世の『資本論』」を読むと、著者・斎藤幸平氏の危機感は深刻です。今流行のSDGsですら、現代版「大衆のアヘン」と切り捨てます。アヘンとは、直視するべき現実から目をそむけさせ、苦悩を一瞬和らげるだけ、そんな意味かと思います。自分のミッションなんて言っている場合では無いようにも思えます。

「宗教は大衆のアヘン」と言ったのはマルクスです。宗教は人間が作ったもので、「幻想の中で民衆に幸福を与える」と指摘します。そして、こうした幻想を必要とする社会の状況こそを問題にせよ、と説きます。宗教論として捉えると、一面的ではあります。ただ宗教の幻想に囚われ、真剣な思考を停止してしまうリスクはまさしくその通り、一人の密教行者として、常に自戒を忘れないでいたい、と思います。

疑似宗教ともいうべきスピリチュアルな人たちにも、同様の思考停止の危険があります。私は「お金の密教」を提唱していますが、思考を停止すると、お金儲けは難しくなります。スピリチュアルな教えは真実ですが、大半が曲学、世間に阿る教えです。人間の進化に必要なステージではありますが、そろそろ次の段階を見据えたいところです。

スピリチュアルの教えは、現実の社会情勢の危機に、適合し難くなっています。いや、スピリチュアルに留まらず、永田町や霞が関にも、あるいは財界や各種業界にも、アヘンが蔓延しております。慣習への囚われのみならず、フェイクニュースだ、情報操作だと決めつけて、日本全体が思考停止に陥っているようです。

4月26日の日経新聞一面「春秋」欄に、みうらじゅんさんの「自分なくしの旅」が紹介されております。コラムの中で「探したあげく、最悪な自分しか見つからなかったらどうします?」という問いに、筆者は「自分というものは、単体では存在しない。環境や他者との関係により構成されているのだ。だから悩みが生じたときは、自分だけを信じるのではなく相手の気持ちや環境を考えてみよう」と著者の考えをまとめて紹介しています。

フォーチュンソフトの金城先生(私の占星術の師でもあります!)のYou Tubeに、小名木善行さんが紹介されておりました。拝見したところ、視聴者の精神科医からの投稿が取り上げられておりました。精神科医は「日本人にうつ病が急増しているのは、自分が世の中の役に立てていない、という心の中の怒りに原因がある」と分析します。海外から押し付けられた個人主義の洗脳を脱し、公に生きる日本古来の教えを伝えると、うつ病が改善していく事例が多い、とも言います。

この見解が医学的な妥当か、私は判断できません。ただとても美しい話です。私も主観的には、その通りと思います。自分の愛する人たちに寄り添う手もありそうです。愛する人達が積み重なり、それが公を形成し、それが生き甲斐へと育ちます。これはビジネスモデルを構築する秘訣でもあります。そうなれば、ライフワークの悩みも、貧乏の悩みも、吹き飛んでしまいます。

南無大師遍照金剛 沼田 榮昭 拝

◎本レポートは、リアル曼荼羅プロジェクト・メルマガ05 【2021年4月27日:蠍座満月】の文章を、大原浩の責任により、抜粋編集したものです。

★南無大師遍照金剛 沼田 榮昭 
沼田功

ファイブアイズ・ネットワークス株式会社 代表取締役
日本証券アナリスト協会検定会員
復旦大学日本研究センター客員研究員

1964年 東京都練馬区に生まれる。
1988年 大和証券株式会社入社(本店第二営業部池袋支店配属)。
2000年 ファイブアイズ・ネットワークス株式会社設立 代表取締役(現任)
株式会社サイバーエージェント 監査役(現在は取締役監査等委員)。
2013年 徳石忠源(上海)投資管理有限公司(リンキンオリエント)
マネージング ディレクター(現任)、その他2社未公開会社の社外取締役を兼務。

著書 「IPO(株式公開)入門」(オーエス出版社)。

生涯100社上場を目指し、サイバーエージェント、楽天をはじめ現在70社を更新中。

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