財政を考えずに戦争をして滅びた国は多い

「新型コロナとの戦いは戦争である」、「戦争の時に財政のことなど考えるべきでない」という人が多い。これは、チャーチルが第二次世界大戦のときそんなことを言い、サッチャーがフォークランド戦争でそれを引用したと思うが、それは「平時ならありえないほどの財政出動をすることも選択肢である」といった程度の話に過ぎない。

まして、国の存亡賭けた戦いならともかく、それほどでもなければ財政のことを考えずに戦うべきとは思えない。さらに新型コロナとの戦いと言うのは「人々の健康と生命のために重要な戦いであり、その制圧は、それなりの規模の戦争にも匹敵する」という程度の意味である。

別に居酒屋やスポーツジムがどこもつぶれないようにすることが相当の規模の戦争に匹敵するほどの値打ちがあると言うのは不適切である。それは通常の経済変動や天災への対策と同じで財政の後先を考えずに支出していいものではない。

また本物の戦争で、さしあたっての財政バランスを崩してまで支出すべきことはあるだろうが、それは後で返済する必要がないと言う性質のものでも、返済の手はずを考えないでしていいものでは無い。

相当な増税を始め国民生活の負担になるようなことが待っているのは当然であって、それを覚悟することこそ大事だ。そして、戦争そのものには勝ってもその負担に耐えられずに国が滅びた例などいくらでもある。

アメリカの独立は、イギリスと植民地が手を組んで後先の財政負担を考えずにフランスに戦争で勝ったものの、その負担はどちらがするかでイギリスと植民地が内輪もめを起こして戦争し、今度はフランスと植民地が組んでイギリスを破って実現したものだ。しかし今度は、この戦争にお金を使いすぎたフランスでは増税しようと思ってできず大革命が起きた。

転じて東アジア史を見れば、明は豊臣秀吉のそれなりに合理性のある通商上の要求をはねつけた結果、戦争になって、秀吉の死でようやく、敗北を免れた。しかし結局、明は、この戦争の支出による財政赤字を埋めきれずに満州族の清に滅ぼされた。

本物の戦争の時にですら財政のことを考えないで軍事費を使うことなんてできない。かえって、国を滅ぼした例などいくらでもある。

戦争の時に財政のことをなどを考えるものではないなどと言うのは、その言葉通りの意味で解釈されるべきものでないことは少しでも歴史を学んだものがあれば知っているはずだ。

にもかかわらず、戦争による余波で現在の仕事を続けられない人が出ると言う事までも戦争と呼び、正気の沙汰でないような大盤振る舞いをすべきだと言う人がいるのは余りもの幼稚さに呆れてものも言えない。

「これは戦争なのに財政の心配をする人がいるなんて」とFacebookで私のタイムラインに書き込んだ方もいるが、幼稚な言葉の遊びもほどほどにして欲しい。

(寄稿 八幡和男)

★八幡 和郎

評論家、歴史作家、徳島文理大学教授

滋賀県大津市出身。東京大学法学部を経て1975年通商産業省入省。入省後官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。通産省大臣官房法令審査委員、通商政策局北西アジア課長、官房情報管理課長などを歴任し、1997年退官。2004年より徳島文理大学大学院教授。著書に『歴代総理の通信簿』(PHP文庫)『地方維新vs.土着権力 〈47都道府県〉政治地図』(文春新書)『吉田松陰名言集 思えば得るあり学べば為すあり』(宝島SUGOI文庫)など多数。

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★本記事は
アゴラ
http://agora-web.jp/
から転載させていただきました。

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