陰謀論
陰謀論
面白い本を見つけました。元外務官僚の孫崎享氏の「朝鮮戦争の正体」です。著者は外務省の情報調査局分析課長、国際情報局長などを歴任され、2009年までの5年間、防衛大学校の教授をされていました。
朝鮮戦争は約70年前の戦争ですが、米ソ冷戦体制、日本の疑似民主主義体制の成立に大きな影響を与えました。副題として「なぜ戦争協力の全貌は隠されたのか」とありますが、日本人であることが恥ずかしくなるような史実が、各種データの引用に基づき記載されております。これからの日本を担わんとする皆様には、ぜひご一読をお勧めします。
日韓問題の本質が少し見えます。どうして日本がここまで韓国から嫌われるのか、隣国の不仲は国際政治の常とはいえ、私はこれまで腹に落ちませんでした。
この本で少しスッキリしました。国家間の問題は単純な話ではありませんが、私の解釈で申し上げれば根本は米国の戦後処理の失敗です。朝鮮半島における日本軍部の戦後処理(「朝鮮人民共和国」設立構想)は、米ソの横槍で実現はしなかったとはいえ、この本を読む限り正鵠を射たものと思います。この点は韓国や北朝鮮ではどう評価されているのでしょうか?
その米国に、戦争犯罪の帳消しを狙い盲従していくのが、日本の現支配層の先輩でもある政治家・官僚です。裏切り者たちは「帳消し」どころか受勲者に名を連ねます。野党もマスコミもレッドパージの嵐の中で沈黙、司法は珍妙な法解釈を乱発、財界は濡れ手に泡と諸手を挙げてこれに協力・推進しました。
米国占領下の物語ではありません。日本の主権回復後の話です。このときの米国の成功体験がイラク、アフガニスタンにつながります。日本では義士が壊滅しましたが、彼らの国では生き残ったようです。当初事実は意図的に隠されました。言論の自由があっても、不快で不都合な事実は70年間ほとんど顧みられませんでした。そして今も日本は、勇ましい陰謀論に明け暮れます。
詳細はご一読頂くとして、私の感想です。戦前の日本は、東アジアに根付き、地域を理解していた国家だったようです。大東亜共栄圏や満州国設立を美化する意図はありません。
ただ現実に、日本は朝鮮半島、中国東北部(満州国)、台湾を実効支配しておりました。この地域から日本が退場した後、米国は台湾と朝鮮半島の南半分を死守するに留まります。朝鮮戦争が勃発しなければ、台湾は中華人民共和国の手に落ちたと思われます。
私は7~8年程度中国に滞在し、何度か東北部を訪問しました。日本軍にご親族を殺害された人、日本軍に協力しそれを懐かしむ人、日本との距離感は一応ではありません。
ただ現在でも東北部の若者は、上海ならともかく、上海近郊よりも、就職先としては日本に親近感を抱きます。満州国は未だ、良くも悪くも、地域の心に根ざしています。中国を含めた東アジアを知ることは、今後の日本の課題と思います。
朝日新聞は社説で「この本は陰謀論だ」とコメントしたそうです。私はこの社説を読んでいませんが、著者が You Tube でそんな話をしています。客観性の高い無数の事実を並べる中から歴史が浮き彫りになる、私はそう感じました。事象の選択、羅列の順序等に、あるいは恣意性があるのかもしれません。
朝日新聞は戦後リベラルを代表する新聞と言われますが、例えば反対側の立場から読んでも、この論旨は扱い難いものなのかもしれません。人は見たいものだけを見ます。見たいものでストーリーを組み立てます。
10年ぐらい前、中国問題の第一人者・評論家・石平氏と、ある財界団体主催の講演をご一緒しました。石平氏は反中派、私は親中派の立場から、中国について議論する、という会でした。主催者は「共産党には様々な問題はあるが、日本と中国は経済的に離れられない関係だ」という落とし所を想定していたようでした。事前に石平氏のご著書を拝読しましたが、そんな落とし所が通用するのか疑問でした。
体を張って中国人として生きて来られた石平氏の生き様は尊重しよう、その上で純粋な経済事象に絞って議論をしよう、と私は考えました。そして基礎的な経済数値を、事前にしっかり頭に入れて講演に望みました。
石平氏は「親中派」の私にも礼儀正しく、ご自身の基調講演を終えると、私の講演が始まる前に、主催者の一人とお食事に出られました。主催者側の配慮なのでしょう。私は政治・経済には触れず、中国での体験から日本の国策を考える、という観点で話をまとめました。
このすれ違いの講演会で、大きな学びがありました。石平氏の経済分析、大半は私が事前研究してきた数値に基づいておりました。中国の統計の精度には議論があるにしても、同じ数字に基づいて、石平氏は中国経済をネガティブに判断し、私はポジティブに判断しておりました。同じものを見ているのに、結論が異なりました。
実は昨年、敬愛する国際投資アナリスト大原浩先生と初めて会食した際にも、同じ経験をしました。大原先生はしきりに「中国経済は弱いから・・・」とコメントされますが、私はその当時、弱いとは感じておりませんでした。この議論には深入りしない方がいいな、と自主規制をしていましたが、先日の共同講演会で、ついに中国経済に触れざるを得なくなりました。不思議なことに、大半の項目で意見は一致しました。どこで見解の相違が出るのか、その夜、焼鳥屋にお誘いしてお話を伺いました。
私なりの結論ですが、大原先生は経済構造の持続性の観点からコメントされておりました。私は中国株式、もしくは為替(人民元)が買いか売りか、という観点からコメントをしました。
構造問題はいつか爆発します。対策を打たなければ、問題は大きくなります。ただ爆発しないまま、一定期間、株価は上昇を続ける場合もあります。
日本と中国を行き来していると、両国のコミュニケーションのギャップが見えます。私は中国共産党員にも、懇意になると政治・歴史の議論を仕掛けました。大まかな傾向として、中国人は近現代史をよく知っています。朝鮮戦争などは、北朝鮮側が開戦に導いた可能性も含め、現在の中国には不都合な事実はさほどありません。
いつどこでどんな外交文章が出て、どの部隊が何の目的でどう動いたか、彼らは1日単位での歴史の議論を展開します。日本でも、研究機関ではそんな議論もされるのでしょうが、一般には細かい事実関係を飛ばして、乱暴な歴史観が飛び交う議論が多い気がします。海外経験の豊かな中国人は、自国がどんな情報操作をしているか、大抵は把握しております。現政
権の問題でさえなければ、事実を根拠にした多様な議論が中国にはありました。
ただ日本への見方は、相当な知日派でも違和感を覚えるケースがありました。2012年、野田首相(当時)が尖閣列島を国有化しました。これは東京都の石原都知事(当時)の都有化戦略に対抗し、日中関係を維持する目的、と日本では見られました。
この件を議論した際、「日本国と東京都が水面下で手を握り、反中攻勢を仕掛けた」と、この知日派の中国人は考えました。日本での政治背景を踏まえ、その読みはあり得ない、と説明しても、この中国人は理解できません。中国では、北京市が国家と対立、なんて状況は想像できないからでしょうか?その上、日本国と東京都が手を組んでいない証拠となると、これは悪魔の証明で、居酒屋での議論はずっと、深夜まで平行線をたどりました。
大半の陰謀論は反証が不可能です。ディープステートにせよユダヤ国際金融にせよ、世界が特定の勢力に動かされる、みたいな英雄史観は現実にはあり得ません。ありふれた日常に疲れた人間の、ささやかなヒーロー願望が反映されるのでしょう。歴史に詳しくても、知的興奮を伴う驚きがあると陰謀論に傾きます。逆に教養がなければ、陰謀論にも冷静に対応します。かつてはそこが日本の強みでした。これは政治・経済のみならず、宗教でも同様です。実は教養溢れる私も経験者です。日韓問題にはご関心がなくても、この本は安直な神様・ヒーロー作りには、効果的なワクチンと思います。
南無大師遍照金剛 沼田 榮昭 拝
◎本レポートは、リアル曼荼羅プロジェクト・メルマガ15 【2021年9月21日:魚座満月】の文章を、大原浩の責任により、抜粋編集したものです。
★南無大師遍照金剛 沼田 榮昭
沼田功
ファイブアイズ・ネットワークス株式会社 代表取締役
日本証券アナリスト協会検定会員
復旦大学日本研究センター客員研究員
1964年 東京都練馬区に生まれる。
1988年 大和証券株式会社入社(本店第二営業部池袋支店配属)。
2000年 ファイブアイズ・ネットワークス株式会社設立 代表取締役(現任)
株式会社サイバーエージェント 監査役(現在は取締役監査等委員)。
2013年 徳石忠源(上海)投資管理有限公司(リンキンオリエント)
マネージング ディレクター(現任)、その他2社未公開会社の社外取締役を兼務。
著書 「IPO(株式公開)入門」(オーエス出版社)。
生涯100社上場を目指し、サイバーエージェント、楽天をはじめ現在70社を更新中。
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