サイバーエージェントを通じて考えたこと

サイバーエージェントを通じて考えたこと

本年12⽉10⽇、株式会社サイバーエージェントの独⽴社外取締役(監査等委員)を退任しました。⽉1回の取締役会出席が中⼼ですが、監査役・取締役(監査等委員)を計21 年勤めました。現実の経営には関係のない話題ですが、サイバーエージェントを通じて 考えてきたことを⼀つ、ご披露いたします。

【21世紀に向けて】
藤⽥社⻑は「21世紀を代表する会社」を⽬指す、と⾔われます。私は会社を⾒る場合、時代の中で果たすべき役割といった観点から、経営戦略の考察をスタートします。経営者は 業績や株価のコントロールを⽬指します。時代を鏡とし、経営課題を炙り出すのが私の⽬標です。

そんな私が、サイバーエージェント の課題の⼀つと感じるのは「テクノポーラー・モーメント(Technopolar Moment)」への対応です。具体的には⽇本政府もしくは ⽇本の政界との距離感となるので、現実の経営に置き換えて考えると、かなりデリケートな話です。

テクノポーラー・モーメントは、アメリカの政治学者イアン・ブレマーが提唱した概念です。巨⼤ハイテク企業(ビッグテック)を、⾃ずから地政学的な影響を及ぼす存在として捉えております。

サイバーエージェントはまだ、ビッグテックと呼べる規模ではありません。ただ「21世紀を代表する企業」という⽴ち位置、それ以上に「⽇本の国益」の観点から、私はそろそろ思考訓練が必要な時期と感じております。

【政治と経済の⼀体化】
本年7⽉の⼤原先⽣との共同講演で私は、インフレ・デフレを政治現象から捉えて考察しました。現代は市場経済ではありますが、政治と経済を分離すると、意味のある結論が導けません。政治⾯からは、経済を切り離す主張は可能かもしれませんが、現実の経済は否応なしに政治を飲み込みます。ここが読めないと、陰謀論に堕ちます。

中国経済の強さは、政治と経済 が有機的に繋がる点です。当初は共産主義として、胡錦濤政権時にはここに⾦融機能を巻き込み、市場競争を伴う、特⾊ある国家独占(資本主義?)経済体制を構築しました。

たとえば中国では市場競争の実質的な主体は、 企業ではなく地⽅政府です。中国の経営者は、海外政府も含め、どの政府と組むのが妥当か、そうした問題意識を常に持ちます。中国は 共産主義国だから、という側⾯も確かにありますが、資本の巨⼤化に伴い、世界各国に 広がる潮流でもあります。私は⽇本でも、こうした視点は無視できないと感じます。

⽇本の上場企業の提携先候補に、私は財務内容の悪い中国企業をご紹介したことがあります。⽇本側のクレームを受け、私は説明不⾜を反省しました。いや、どんな説明をしても、⽇本の監査法⼈や投資家には、理解は得られなかったでしょう。

バックの地⽅政府にお⾦があるか、⽇本とのビジネスを望んでいるか、私はこの2点を⾒ていました。 ⽇本では、私の会社との取引に、⽇本国や東京都の財務状況を気にする⼈はいません。

ただ中国では、お⾦のない地⽅政府傘下の会社、私は危ないと感じます。最近トリプル A、ダブルAといった、トヨタ⾃動⾞並の⾼格付中国企業がデフォルトを起こします。 「中国の格付は⽢い」と⾔われます。カントリーーリスクの判断の誤りは考えられますが、「中国だけ⽢い」という現象は他に説明し難いと思います。単体企業の財務分析を主にすると、中国の経済分析は難しい⾯があります。「⽇本では企業が競争し、中国で は政府が競争する」のです。

【テクノポーラー・モーメントとは】
テクノポーラー・モーメントの特⾊の⼀つは、政府とビッグテックとの「内政」関係です。ビッグテックは純粋に企業価値の向上を⽬指しますが、それはいずれ、規制当局の⼿の届かない分野で、必然的に政治的な影響⼒を強めます。これは国家・政治との摩擦要因となります。

たとえば⽶国政府とFacebook(現Meta)は、ビッグテック側に政治的な意図はおそらくは無いでしょうが、今や摩擦が絶えません。Twitterも現職の⼤統領 (当時)であるトランプ⽒の⼝座を⼀企業の判断で凍結、これが⾔論の⾃由と⺠主主義 の観点から、国際的な議論を巻き起こしました。

⼀⽅で中国でも、共同富裕の掛け声の中、アリババ、テンセントといったビッグテックが狙い撃ちにされます。こうした流れ は楽天と⽇本郵政の資本業務提携、あるいは公正取引委員会とのやり取りなど、⽇本で も⾒え始めております。⼀企業の努⼒ではコントロールできない部分ですが、サイバー エージェントにとっても、研究が望まれるテーマと思います。

また⽇本の中でも、国家と技術との関わり⽅を、⼀度俎上に載せてみるべき時期と思います。

もう⼀つの特⾊は、各国政府間の「国際」関係です。⽶国のグローバル戦略を考えた場合、⽶国ビッグテックと⽶国政府は、内政⾯では構造的な摩擦が絶えなくても、国際関係においては構造的な同盟軍です。各国政府は団結してビッグテックに対応する⼀⽅ で、各国政府間の⼒関係に、その国のビックテックは重要な意味を持つのです。

⽇本は 今、⼤まかには⽶国ビッグテックの影響下にあります。このマーケットを中国が奪った場合、ビジネス上のシェアの変動に留まらない地政学的な意味を持ちます。中国・習近 平政権が、習近平派ではないアリババやテンセントを叩き切れないのも、国際政治上の同盟関係を考慮していると思われます。中国の悲願でもある「国⺠国家としての成熟」 には、私はWechat(テンセントのSNSサービス)が⼤きな役割を果たしたと考えます。

仮想通貨はよりストレートな事例でしょう。この時代、技術は政治と無縁ではいられません。少し先回りすると、世界各国が「中央銀⾏デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)」に向けてしのぎを削る状況こそ、国家と技術の必然的同盟関係の事 例の⼀つです。

【⽇本のビッグテック】
⽇本のビッグテックは、海外ではまだ、ほとんど影響⼒はありません。サイバーエー ジェントも現時点では、海外での売上は微々たるものです。この状況をどう評価するか、社内での経営判断で完結するのか、何らかの形で⽇本国家を巻き込む話なのか、私は知的好奇⼼が⽌まりません。

この辺りは「国家独占資本主義」「⾦融資本」といった かつての左翼陣営の議論が参考になりそうです。ベルリンの壁崩壊以後、まずは⾦融が国際化し、それをネットが補強・拡⼤しました。主役は⾦融からビックテックに移り、 さらに今や、国際化は⼀転、分断のサイクルに⼊りました。

このパラダイム転換は壮⼤なインフレ要因です。私は⽇本も、今やインフレ対策を検討する時期と思いますが、海外諸国と⽐較すると、まだデフレが残ります。この分断をどう国益に繋げるのか、仕掛けるには絶好のタイミングにも⾒えます。サイバーエージェ ントにとっても、⼀企業でできる分野は限られるものの、デフレ(国際協調)からインフレ(国際分断)へと変わる今、「21世紀を代表する」ための企業としての⽅法論を、 さらに磨き上げる時なのかもしれません。

◎本レポートは、リリアル曼荼羅プロジェクト・メルマガ21【2021年12⽉19⽇:双⼦座満⽉】の文章を、大原浩の責任により、抜粋編集したものです。

★南無大師遍照金剛 沼田 榮昭 
沼田功

ファイブアイズ・ネットワークス株式会社 代表取締役
日本証券アナリスト協会検定会員
復旦大学日本研究センター客員研究員

1964年 東京都練馬区に生まれる。
1988年 大和証券株式会社入社(本店第二営業部池袋支店配属)。
2000年 ファイブアイズ・ネットワークス株式会社設立 代表取締役(現任)
株式会社サイバーエージェント 監査役(現在は取締役監査等委員)。
2013年 徳石忠源(上海)投資管理有限公司(リンキンオリエント)
マネージング ディレクター(現任)、その他2社未公開会社の社外取締役を兼務。

著書 「IPO(株式公開)入門」(オーエス出版社)。

生涯100社上場を目指し、サイバーエージェント、楽天をはじめ現在70社を更新中。

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