恒大集団デフォルトに無反応を示す市場! 地獄への道を国際金融資本は選択したのか?
中国の超大手不動産ディベロッパーの恒大集団のデフォルトが確定した。来年4月の元本返済までは中国政府が支援して引き延ばすのではないかと思っていたので、正直に言えばこんなに早いとは思わなかった。同じ不動産ディベロッパーの佳兆業集団も4億ドルの米ドル建て債を償還できず、香港証券取引市場での同社の株取引が停止となった。
にも関わらず、香港・上海・ニューヨークの株価指数は揃って上昇し、一見すると何ごともなかったかのようである。
ブルームバーグは「中国恒大危機はリーマン・モーメントにあらず」との記事を掲載した。本土株のCSI300指数が6週間ぶりの高値を付け、中国のジャンクドル建て債(投資不適格債券)は額面1ドルに対し2セント値上がりし、人民元の対ドルレートも上昇したことを報じた。
そもそも中国の株・債券の値動きや人民元の上昇は「官製相場」だと理解すべきである。短期的には強力にマーケットをコントロールする力が中国政府にはあり、それが発揮されたものにすぎないと見るべきものであるのは言うまでもない。
だが、この記事に見られるような楽観論は国際金融資本筋では非常に強い。例えば、オーストラリア最大の投資銀行であるマッコーリーのラリー・フー首席エコノミストは、恒大集団が保有する土地は優良物件で占められ、住宅プロジェクト全体の価値は1.4兆元(約24兆円)、つまり負債総額(約34兆円)の約7割には優良な現物の裏付けがあると主張している。
こうなると恒大集団のデフォルトは10兆円程度のショックしかもたらさないから大騒ぎするなというわけである。しかも恒大集団の負債のうち外債はせいぜい3兆円だから、負債全体に占める割合としては10%もない。従って西側世界に与えるショックはさらにその1/10以下になるのではないかというわけである。
こういう立場から、恒大集団危機は「リーマン・ショックの二の舞というより、LTCM危機に近いのでは」との声も出ている。つまり一時的な現象にすぎず、それ以上大きな動きにはならないだろうというわけだ。
(LTCMとはノーベル経済学賞受賞者のマイロン・ショールズとロバート・マートンがかつて率いたヘッジファンドだが、彼らのリスク管理理論が1997年のアジア通貨危機、1998年のロシア通貨危機ではその理論が通用せずに破綻に追い込まれた。FRBと大手金融機関が35億ドルのパッケージを用意して救済し、金融危機がそれ以上広がるのを防いだことで知られる。)
だがこの見方は明らかにおかしいだろう。現在中国を覆っている危機は恒大集団一社だけが背負っているものではない。中国の成長に極めて大きな貢献をしてきた不動産セクター全体が崩れようとしているのである。この話を業界の中でも特殊な運用を行っていたLTCMの破綻の話のレベルだと評することはできない。
既に11月17日に恒大集団から利払いを受けていないと主張していたドイツのDMSA(ドイツ市場審査機関)は12月7日(日本時間では8日)に新たなプレスリリースを出した。この中でDMSAは世界3大格付け機関の1つであるフィッチレーティングが、恒大集団の債権者が回収できる債権額は0から10%になるとの見通しを示している。7割は確保できるというマッコーリーの楽観的な見通しを実は権威ある格付け機関であるフィッチは持っていないのである。
非常に不可解なのは、このDMSAが恒大集団から利払いを受けていないと主張したことを、国際金融ニュースが無視し続けたことだ。これに関連する形で1580億ドル(約18.5兆円)のCDS(破綻保険)の発動が予想されるという重大なニュースについても続報がなかった。DMSAの話が間違っているなら、それは間違っていて真相はこうだという報道がなされてしかるべきだろう。それすらもなかったのである。
ここから先は私の完全な憶測に過ぎないが、ウォール街などの国際金融資本は中国政府から「悪いようにはしないから、大袈裟に扱うことをしないで中国に協力してくれ」との打診を受け、それに従っているのではないか。その結果として、あたかも恒大集団の危機がLTCM並みのものでしかないといった宣伝を行い、市場が動揺しないように持ち込んでいるとの読みである。
そもそも西側の国際金融資本が行っている株と債券の人民元投資で1兆2000億ドル(約135兆円)に達するとされる。これが吹っ飛ぶ事態を国際金融資本にしたらどうしても回避したいと考えるだろう。西側政府では絶対にありえない中国政府の市場コントロール能力の高さに国際金融資本は命運を賭けたのではないか。そんなふうにも見えるのだ。
だが問題は現在の中国の危機はそういう糊塗によって騙し通せるようなレベルではないということにある。口先だけでごまかしても、現実の経済的苦境は消えることはなく、中国国内の経済破綻は凄まじい勢いで広がっている。しかも今後その流れはさらに加速するのは確実なのだ。
日本ではほとんど報道されていないが、公務員の給料が半減するような事態すら中国では広がっている。学習塾の禁止だけでも1000万人の失業を生み出したと言われている。中国内でも最も勢いがあると思われてきたバイトダンス(TikTokなどの運営会社)ですらリストラが行われている。
現在進行中の中国経済の崩壊は、我々が想像するレベルを遥かに超えているのである。このことを無視してはならない。
★本レポートは朝香豊氏のブログ(https://nippon-saikou.com/6597)から転載いたしました。
朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。
日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。
現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。
日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」( https://nippon-saikou.com )の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。
近著に『左翼を心の底から懺悔させる本』(取り扱いはアマゾンのみ)。
それでも習近平が中国経済を崩壊させる (WAC BUNKO 334) 新書(https://www.amazon.co.jp/dp/4898318347/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_EHE0HDC426590NKTX59H)
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