研究レポート:シェール開発進まない中国で原油生産が逓減
シェール開発進まない中国で原油生産が逓減
480億トンに上る世界有数のシェール オイル埋蔵量を持つ中国ですが、その開発は進まずむしろ同国全体の原油生産量は次第に低下しています。国家統計局によると中国の月間原油生産量は2015年11月以来29か月連続で前年比マイナスを記録しました。その間に原油需要は13%伸びており、需給ギャップを埋めるために輸入依存度は高まる一方です。原油自給率の低下は重大な問題となっており、米国との貿易戦争においても輸入原油は報復関税の対象リストに入れることができませんでした。
2018年7月の数値を比較すると、原油の国内生産量が日量375万バレルなのに対し税関発表の輸入量は同850万バレルで自国生産量の2.3倍に上ります。中国のエネルギー供給の中で原油の輸入依存は突出しており、石炭は国内生産量2億8,150万トンに対し輸入が2,900万トン、天然ガスは国内生産量130億立米に対し輸入は10億立米と輸入量はそれぞれ自国生産量の1割程度に止まります。ただし、石炭生産量は月間3億トン程度で頭打ち傾向を示しているため、現在国内生産が増加を続けているのは天然ガスのみとなっています。
ところで原油生産の伸びが止まっているのは中国に限ったことではなく、2010年代の世界の石油生産量の増加は概ね米国の増産に依存しています。米国の原油増産はもちろんシェール オイルによるものです。シェール オイル産地でも既存油井の生産量変動では年々減少幅が拡大しており、新規シェール油井の開発が増産のカギとなっていることが分かります。特にテキサス州パーミアンなど低コストでシェール ガス/オイルの生産できる地域に投資が集中する傾向が顕著で、それが更なる生産効率化を招いて従来型の油田開発にコスト競争力を失わせています。ただ、パーミアンへのシェール オイル生産の集中は行き過ぎの感もあり、増産にパイプラインの輸送インフラ整備が追い付かなくなるという状況すら生んでいます。
中国には世界最大のシェール ガス埋蔵量と世界第三位のシェール オイル埋蔵量があるものの、その大部分は四川省の山岳地帯など開発が困難な場所に分布しており、今のところほとんど生産は行われていません。開発や輸送のコストだけでなく、水圧破砕法によるシェール オイル生産に必要な大量の水の確保にも問題はあります。シェール ガス/オイルの生産に必要な水量は、井戸の深さによりますが油井当たり浅いもので1万トン、深いものでは数万トンに上るとされます。北米で開発の障害になっている排水による環境汚染は中国にとって大きな問題ではないかもしれませんが、ただでさえ乏しい水資源を原油生産に費やすよりは原油を輸入した方が合理的とも思われます。
エネルギー情報局 (EIA) は米国のシェール オイル生産が2030年頃まで増加を続けると予想しており、少なくともそれまではコスト競争力の低い中国の原油生産量が伸びる見通しも低いと考えられます。石炭生産量もピークアウトした中国ではエネルギー自給率に対する懸念が高くなるのかもしれませんが、将来何が起こるかを推測するのは困難です。シェール ブームが起きる前は、米国でも現在の中国のように原油生産が緩やかな逓減を続けていましたし、化石燃料の需要がいつまで成長するのかも正確なところは分かりません。
<人間経済科学研究所:研究パートナー>
藤原 相禅 (ふじわら そうぜん)
個人投資家
広島大学文学部卒業
日本大学大学院で経済学修士
地方新聞記者、中国・東南アジア市場での先物トレーダーを経て、米国系経済通信社で商品市況を担当。子育てのため一家でニュージーランドに移住。台湾出身の妻の実家が営む健康食品メーカーの経営に参画。
商品相場歴30年余。2010年から原油相場ブログ「油を売る日々 (https://ameblo.jp/sozen22/)」を運営。
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