仮想通貨とブロックチェーン

木ノ内敏久日本経済出版社

ブロックチェーンが革新的技術であることは間違いありません。しかし、その技術が真っ先に使用され、実用化されたビットコインをはじめとする仮想通貨の将来については全く未知数です。

なぜなら通貨の本質(詳しくは拙著「銀行の終焉」<あいであ・らいふ>をご参照ください)を考えれば、通貨が通貨であるのは人々がその通貨に価値があると信じているからです。

狸に渡されたお金がいつの間にか木の葉になっていたという童話がありますが、人々が「通貨だと思わなくなったらドロンと消える」のが通貨の宿命です。

日銀券はまだ安心できますが、エチオピアやナイジェリアの通貨などは、いつドロンと消えるかもしれません・・・・実際、ビットコインがメジャーな存在になったのは、自国通貨の価値に不安を感じたロシアやチャイナの人々が、海外に簡単に資金を持ち出す手段として注目したからです。

本書では、サトシ・ナカモトによるビットコインの「創造」から直近に至るまでの「歴史」を詳細に語ることによって、ビットコイン(仮想通貨)の問題点と将来性を論じています。

ビットコインは、インターネット黎明期に多数考案され、ものの見事に失敗した「仮想通貨」より熟慮されて設計されているのは間違いありません。「人間経済科学」的観点で考えても、人間の「欲望」「心理」に関して深い洞察を感じます。

ただ、多くの欠点もあります。一番の欠点は、十分力のある機関の保証が無いことです。もちろん、数々のインターネット取引において、「中央集権型」では無い「分散型」「自律型」のシステムが十分機能することが明らかになりました。

しかし「お金」というのは特殊な存在です。まず、人間の欲でまみれていますし、ビットコインなどの仮想通貨が犯罪によく使われているのは事実です。

さらに、大多数の人にとってお金は「自分(あるいは家族)の命の次に大事な存在」であり、一部の人にとっては「他人の命よりも大事な存在」です。

私自身、人間の良識に期待する部分が多いのですが、それでも警察や軍隊が今後必要無くなるためには、相当な期間が必要になると考えています。

ビットコインは「分散型」であり、基本的に人間の欲望と多数決で運営していますが、「お金」のような汚れた商品を取り仕切るのは最終的に難しいのではないでしょうか?

例えば、ギリシャや英国の国民投票で明らかになったのは「多数派の意見が正しいわけでは無い」ということです。投票を行う大多数の国民は、結果に責任を負うわけでは無く「うまくいかなかったときだけ政府を非難する存在」です。

直接民主制が普及しないのは、技術的な問題もありますが、いわゆる「衆愚政治」を呼び起こす危険性が高いからです。

仮想通貨を熱烈に支持する人々の多くが左翼(リベラル)であるのも気になるところです。共産主義者は、言うことは立派ですが何の責任も取らず何も生み出さず、他人(国民)から奪うことだけを考えています。

共産主義者が政権をとった国々で、共産党員が一般国民を蹂躙する恐怖政治、独裁政治が行われるのも不思議ではありません。

仮想通貨の背景にそのような「共産主義的無政府主義(実は結果的に共産党が支配する)」が見え隠れするのは注意点です。

また、ビットコインなどの仮想通貨が基本的にねずみ講であることも十分注意する必要があります。一般のねずみ講同様、一番最初に始めた人間がうまく足抜けすれば大儲けできますが、後から入った人間は大きなリスクを抱える割には、損をする確率が高まります。

ビットコインも、マイナーと呼ばれる人々が魅力を感じなくなり、マイニング(ビットコインの運営上の重要な役割)を行わなくなったり、ハード・フォークと呼ばれる組織の分裂がおこったりすれば暴落どころか無価値になる可能性があります。その時には「だれも責任をとらない」ビットコインの暗部が明らかになるはずです。

ちなみに、ビットコインを創造したサトシ・ナカモトは100万BTCを保有していると推察されますが、現在の相場で1兆円を超える価値を持つようです。

また、2017年3月現在で1万BTC(現在の価値で60億以上)を持つ口座は110で採掘済みのコインの2割を占めます。1000BTC以上(6億円以上)は1750口座で全体の4割のコインの量を占めます。一方1200万以上あるアドレス(全体の99%)は10BTC以下しか保有しておらず、コインの量の1割にしかなりません。

左翼(リベラル)が熱狂しているシステムが、実社会よりも富の偏在を加速させているのは皮肉(当然?)なことです。

<文責:大原浩>

 

 

 

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