創業者・石橋正二郎 ブリヂストン経営の原点

小島直記新潮文庫

昭和53年9月にブリヂストン㈱から「私家版」として発行されたものに加筆して昭和61年4月に発行されました。そのためもあってか、「社史」的な色彩が強い内容ですが、自己顕示とかお飾りとは無縁で、「社史」であることが、かえって内容にリアリティを持たせています。

ブリヂストン創業者の石橋正二郎は、他の多くの起業家と同じくきわめて個性的な人物ですが、注目すべきは現代のIT企業家と同じく理路整然と物事を考える人物であったことです。その点が現在のブリヂストンの繁栄につながっているのではないでしょうか?個人的な印象では、<礼儀正しく、人情味のあるジェフ・べゾス(アマゾン創業者)>という感じです。

起業物語ももちろん興味深いのですが、注目すべきは<労働争議><鳩山一郎><ブリヂストン美術館>。

戦後まもなく日本に吹き荒れた労働運動とストライキの嵐の中で、「従業員の集まりである労働組合(従業員組合)に対しては友好的姿勢をとりながらも、労働組合の中に入り込んで扇動する一部の共産主義テロリスト(予備軍)達には断固たる態度を取る」方針を堅持し、問題を収束させました。合法的利権集団である労働組合ですが、あくまで合法なわけですから彼らとは融和し、非合法の共産主義テロリストとは徹底的に対峙する胆力には敬服します。

さらに、戦時中は軍部ににらまれ不遇をかこっていた鳩山一郎との交流。戦後鳩山が自由党を結成したり、内閣を組成するときにも大きな力となります。ただ、大変残念なことは、偉大な政治家である鳩山一郎の能力と志は、子孫の政治家達には全く受け継がれなかったことです・・・

そして、フランスの文化相が一目ぼれし、フランスへの「里帰り展」を切望した素晴らしいコレクションの数々。起業家・企業家という枠を超えた大人物の伝記は、かなりエキサイティングです。

<文責:大原浩>

 

 

 

参考書籍等紹介

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確率とデタラメの世界 偶然の数学はどのように進化したか

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たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する

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