神経とシナプスの科学 現代脳研究の源流

杉晴夫講談社ブルーバックス

「脳」の勉強をするのであれば、脳に信号を送り、脳からの信号を伝える神経系の勉強は欠かせないと思い読んでみました。

前半部分は、私が苦手とする電気回路や化学反応の話にあふれていて、かなり苦戦しました。ただ、神経反応そのものが、ボルタ電池にも似た化学的環境の中での<電気>と化学物質の伝達によって行われているわけですから、「乗り越えなければならい壁」だと思い、カタツムリのようなスピードで読み進みました。すると、後半からは脳機能ともつながったわかりやすい話になり、何とか読了することができました。

神経やシナプスに関しては、中学や高校の理科で習った程度の知識しかなかったので、大いに刺激になる内容がありました。

また、著者が戦後間もないころ(戦前の子供時代は父親の東大の研究室で遊んでいた・・・・)から生理学の研究を続けていたため、グローバルな研究者との交流があり、そのよもやま話も面白かったです。学者の派閥争いや研究成果を奪い合う暗闘がどのように生じるのかが手に取るようにわかります。

また、海洋生物の研究者としても一流であった昭和天皇が、ロサンゼルスの海洋博物館を訪れたエピソードでは、天皇陛下のお人柄がしのばれるとともに、外務省や宮内庁などの官僚の今も変わらぬ体質も垣間見ました・・・

注目されるのが、「網膜細胞は大脳皮質のニューロン回路のモデル」であると言われることがあることです。網膜細胞は、化学伝達物質によって情報を伝えます。AIブームで、<脳は電気回路>というイメージが定着してしまっていますが、高等動物においては、脳だけではなく神経回路にも化学物質の伝達が深く関与します。単純なスピードでは電気<デジタル>の方が格段にスピードが速いのに、網膜細胞のような高度な情報処理にも化学物質の重大な関与(アナログ)があるということは、コンピュータが単純な電気回路である限り、人間の脳の働きには追いつけないということを示唆しているのではないでしょうか?

「マックスウェルの悪魔」的な細胞膜の機能の説明も面白かったです。

<文責:大原浩>

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