進化は万能である 人類・テクノロジー・宇宙の未来

マット・リドレー 早川書房

 

まず、読者にとって意外かもしれないのは、ダーウィン(1809年生まれ)はニュートン(1642年生まれ:ユリウス暦)よりも150年以上も後の時代の人間であることです。

そのため、万有引力の法則を否定する(アインシュタインの相対性理論によって修正が加えられましたが・・・)人はいなくても、いまだに米国のキリスト教原理主義者は進化論を否定し、学校で「地球は6000年前に創造された」と教えるよう強いプレッシャーをかけています。

何故進化論が人々になかなか受け入れられないのか?それは(神や人間などの)「意図」や「計画」をすべて否定するからです。

本書では、生物学的なダーウィンの進化論を「特殊進化論」、アダム・スミスに端を発する(ダーウィンも影響を受けた)社会・経済などすべての事象に関する進化論を「一般進化論」として区別します。

例えば、一般進化論に従えば、トップダウンによる「指示」「意図」「計画」等はすべて効果が無く無意味です。有名なニューディール政策、(災害からの)復興プラン、ナントカ5か年計画など、数え切れないほどのプロジェクトは、何も効果を生み出していません。

政府などの政策が成功したように見えるのは、「元々社会・経済・市場が政府の意図する方向に向かっているときだけ」であって、政策によって元々の流れを変えることはできません。

社会・経済も生物の進化と同様に「適者生存」の原理に従って、「自律的に進化する」のです。したがって、トップダウンによる「意図」や「計画」は必要ありません。

著者は、この意図や計画を必要としないアメ―バのような「一般進化論」がほとんどの社会現象で有効なことを全16章にわたって、丁寧に証明しています。

特に注目されるのは、第15章と第16章です。

まず、第15章は<通貨の進化>というタイトルの中で「中央銀行は不要である」という議論を展開しています。最近の日銀のていたらくを見ていると、心情的に同意する読者も多いかと思いますが、現在の日銀が抱える問題は、一時的な政策の不手際ではありません。

過去数百年の世界の歴史の中で、中央銀行が経済を救った例は無くても、大きな打撃を与えた例は、星の数ほどあることを豊富な事例で証明しています。

例えば18世紀に中央銀行が消滅したスコットランドにおいて、銀行の経営内容が格段に向上し、中央銀行が存続したイングランドよりも銀行倒産件数が大幅に減った事例があります。

スコットランドにおいては「最後の貸し手」がいないことが強く意識されて、融資姿勢が常に慎重になったのに対して、「最後の貸し手が控えている」イングランドでは融資審査基準が甘くなったからです。

また、1930年代の大恐慌による経済的打撃が最も少なかったのは、当時中央銀行が存在しなかったカナダであることも特筆すべきことです。

さらに、リーマンショックの原因も「政府による低所得者向け住宅取得の優遇政策」にあるとしています。つまり、政府が銀行に対して「信用力の低い低所得者に融資を行うことを強制した」からだということです。もちろん、銀行がその政府の強制に従ったのは、最後はファニーメイなどの政府機関や中央銀行がしりぬぐいをしてくれるということを見込んでいたからです。

第16章では、インターネットの発達による<政府の統制から自由な通貨>の話に議論が移ります。

ビットコインなどの仮想通貨については、その趣旨が理解されないまま加熱しているので、これから投資するような対象ではないと思いますが、仮想通貨を支える<ブロックチェーン>の技術は、コンピュータやインターネットに匹敵する革命的技術だと思います。

これまでの通貨は、第三者(例えば政府や銀行)による関与が無ければ価値を生みませんでした。1万円札の製造コストは20円ほどですが、20円を1万円にすることができるのは信用力のある)政府や銀行だけであったのです(通貨の価値の本質については拙著「銀行の終焉」(あいであ・らいふ)をご参照ください)。

ところが、ブロックチェーンの技術があれば、中央集権的な機関(政府・銀行)が無くても、インターネットのように階層の無いフラットなネットワークで、資金のやりとりができるということです。これが実現すれば産業革命に匹敵するようなインパクトを与えるでしょう。

ただし、現在騒がれている、いわゆる分散型のビットコインや仮想通貨などがその主役になる可能性はあまり無いと思います。

<文責:大原浩>

 

 

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